IF キャバッローネの場合
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だから、潮時だ。


体調などではなく、精神的な意味で。

これ以上ここにいたら、どんな情けないことをしてしまうか分からないから。


そして、滞りなく問題なくその日は訪れ。

ディーノ率いるファミリーのほとんどは外に出て、アジトには数人しかいない状況になるのを待ち。

獄寺は部屋から出た。



置手紙のひとつでも書こうかとも思ったが、結局やめた。何を書けばいいのか分からなかった。

アジトの廊下を、目立たないように歩く。誰かに見つかったら面倒だ。

道行く途中、とある部屋の扉が開いていた。

室内を覗いて見ると、そこには真新しいピアノが設置されていた。

ディーノが買うと言っていた、あのピアノだろうか。


「………」


獄寺がなんとなくそのピアノを見ていると……物音が聞こえた。

誰かが近付いているのか!?そう思った獄寺は思わずピアノの部屋に滑り込む。ドアを閉める。

息を潜め、物音の出所を探る。複数の足音。話し声。この声は…確か、自分に色々言ってきたあいつらか。

偶然なのかどうなのか、どうやらアジトに残っている人間というのはディーノが言っていた「変な幻想を抱いてきた」連中らしい。


「……………」


獄寺は息を潜め、奴らが去っていくのを待つ。必然的に彼らに集中し、会話が聞こえてくる。

その声は文句に苦情ばかり。やれここのボスはへなちょこだの、甘いだの、ぬるいだの。

概ね獄寺も同意見ではあったが、どうもその口調の端々に侮蔑や侮辱の色が含まれていて気に食わない。

何故だか獄寺は自分が罵倒された以上の怒りを覚えた。

思わず扉を蹴飛ばし、自分の存在を示す。

ぎょっとする彼らだったが、現れたのが獄寺だと知り直ぐに見下した笑みを浮かべ近付いてくる。馴れ馴れしく触れられる。気持ち悪い。


おいおいなんでお前がこんなところにいるんだよ。

立って歩けるようになったならとっとと出て行けよ。

オレたちみんなお前に迷惑してるんだ。

いつまでもボスに甘えてんじゃねえ。

それともあれか?もしかしてお前は最初からここに忍び込むことが狙いだったか?

なんて奴だ。何が目的だ?金か?情報か?それとも…ボスの命か?



ああ、悪い跳ね馬。

もう限界だ。



獄寺は目の前のそいつを殴っていた。

軋む身体と逆上する周り。

体格でも体調でも、数でも劣る獄寺はあっという間に囲まれ、殴られ、蹂躙される。

勢いだけで飛び出た獄寺に勝算などあるはずもない。

獄寺の身を纏うのは、不屈の精神だけ。

殴られようが蹴られようが…もしかしたら殺されようが、曲がることのない心。

反撃は通じず、塞がりかけた傷は開き、痛みが身体を支配する。

どれほどの時間が経ったのか、獄寺の意識が朦朧とし始めたとき……



「―――隼人!?」



声が、聞こえた。



獄寺の怪我は酷く、獄寺は再びベッドへと逆戻りする羽目になった。

落ち着いてきた頃、事の顛末を聞かされた。

ファミリーの人間が総出で出ていき、残った奴らは理想と違うキャッバローネから抜けようとしていた。

その際、多少の小銭をせびりながら。


そこに現れたのが獄寺であり、全ての話を聞かれたと思った彼らは獄寺を口止めしようとした。

獄寺は言われた言葉を思い出す。目的は金か、情報か…と。あれは自分たちにやましいことがあったから出た言葉らしい。

ディーノは酷く自分を責めていた。仕事が早めに終わり戻ってきたから良かったものの…そうでなければ。獄寺はどうなっていたのか。とディーノは拳を握り締めていた。

彼らの姿は今やどこにもない。ディーノ曰くきっちりけじめをつけさせたらしいが…どうなったのかは分からない。別に知りたくもない。


それより獄寺は前回よりも更に大きく謝るディーノをどうにかする方法が知りたかった。

ディーノは獄寺を(今は除籍したとはいえ)自分の部下が傷付けたということを酷く気にし、対抗策が打たれた。護衛とか付いた。

いらないと言っても聞く耳は持たれず、逃げることも出来ず、獄寺は燻りながら遅々と傷を癒した。

そうして怪我も治り、獄寺はキャッバローネから出ることをディーノに告げた。