IF キャバッローネの場合
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「世話になったな」

「ああ…いや、半分以上はオレのせいでもあるから……」


あんな奴らとはいえ自分の部下であり、部下の失態は自分の失態と捉えているらしい。

獄寺はディーノに背を向け、歩き出す。

背中に視線を感じていると…不意に後ろから抱きしめられる。


「………っ!?」

「―――やっぱ駄目だ!!行かないでくれ!!」

「あぁ!?」


獄寺を引き止めた相手は当然というか、ディーノだった。


「頼む!!スモーキン、オレのファミリーに入ってくれ!!」

「な…にを、突然…」


呆気に取られる獄寺に、ディーノは告げる。

本当は最初から…それこそ獄寺を拾ったその日から、獄寺をファミリーに入れたくて入れたくて仕方がなかったと。

しかし最近、あまりにもディーノが無条件にスカウトするのに頭を痛めたロマーリオに自分からのスカウトを禁止されていたのだと。

何度獄寺をスカウトしようとしたか分からない。見舞いに行く度、言いたくなった。そしてとうとう、今、我慢の限界が来た。と。


「お前は然程、キャッバローネファミリーに魅力は感じないかもしれない。けど…」

「ま…待て。別にオレは魅力を感じないとは……」

「だって。スモーキンはマフィア入りしたくてあちこち自分を売り込んでいるのにオレには何も言わなかったろ?それってつまり…そういうことに……」

「いや、それは……」

「それは?」

「―――なんでもねえ!!」


言えない。まさか、断られるのが怖くて言えなかっただなんて。絶対に言えない。

ともあれ、どうやら自分たちは変なすれ違いをしていたらしい。獄寺のみその誤解を解く。

しかしここで、「分かった入る。これから宜しく」と素直に言えないのが獄寺である。

獄寺はしばらくなんと言うか逡巡し…そっぽを向いたまま、言葉を吐く。


「こないだの連中みたいな奴を疑いもなくファミリーに迎え入れてたんだ。そりゃロマーリオの懸念も頷ける」

「あ、ああ……」

「今回は小物だったけどな。てめえが好き勝手スカウトする度同じことが起こって、いつか取り返しのつかないことが起きるだろうよ」

「そ…そう、だな。オレのせいでお前は負傷して…はは、わり、こんなファミリー…」


願い下げだよな。


そう、言いかけたディーノの台詞を獄寺が遮る。


「だから…まあ仕方ねえ。オレが面接官してやるよ」

「…スモーキン?」

「一応世話になったからな。落ちぶれるのが分かってて黙って見てられねえ」

「えっと…それって……」

「…入ってやってもいいって言ってるんだ!!察しろこのへなちょこが!!」


顔を赤くしながら吐き出す。ディーノはその声を聞いて満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうな隼人!!」

「なんでいきなり名前呼びになってんだよ!!」

「え?だってもうファミリーなんだし、名前呼びでいいだろ?」

「…こないだもオレのこと名前で呼ばなかったか?」

「………え?いつ?」


覚えてないらしい。


「…ああ、もういい。一応お前はもうオレのボスだ。好きに呼べ」

「い、一応じゃなくて本当にボスだぞ?隼人。あと何でそんなに偉そうなんだ?」

「何か文句あんのか?」

「ないです」


早くも上下関係が築かれつつあった。


「じゃあ早速みんなに紹介しないとな!今日は隼人の歓迎会だぜ!!」

「歓迎会……ね。―――ディーノ」

「ん?」

「ピアノ。聞きたかったら弾いてやるよ」

「本当か!?あ…でも隼人、弾きたがってなかったろ?気を遣ってるんなら、それは別に……」

「オレが弾きたくないのは、発表会用のピアノだ。……家族のために弾く、気楽なもんでよければ弾いてやるよ」


照れくさくなったのか、最後の方で獄寺はまたそっぽを向いた。ディーノはその言葉を聞き、また嬉しそうに笑う。


「そうか!じゃあ頼むぜ!!ああ、楽しみだなー」


獄寺の手を引き、歩き出すディーノ。

あたたかな手。あたたかな声。

拒絶されることなく、受け入れられる。

その心地よさを感じながら、獄寺はその手を握り返した。


これはディーノが昔の恩師に呼ばれ、ファミリーを引き連れて日本に飛び、一波乱が起きる数ヶ月前の話。


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今はまだそんなことも知らず、今はただ平和なひと時を。