起こり得たかも知れない一つの未来
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ディーノが何やら珍しく真面目な顔で電話をしていた。

獄寺は珍しいこともあるもんだ、と思いながら少し離れたところで仕事をしている。

獄寺のそんな様子を横目で見ながら、ディーノは電話向こうの…かつての恩師であるリボーンと話す。


「ああ…時期的にもこいつらで間違いないだろう。並盛を襲っている連中は脱獄囚…首謀者は六道骸だ」

『なるほどな…引き続き情報収集を続けてくれ』

「分かった」

『それと…こちらに人手が足りん。そっちの人間を一人寄越せ』

「そうなのか…そうだな、ならイワン辺りを……」

『獄寺がいい』

「………」


ディーノの言葉を遮り、断られるとはまったく思ってない口調でリボーンが告げる。


「……隼人?」

『ああ』

「なんで?」

『ツナの希望だ』

「ツナの?」


あの可愛い弟分、どうやらすっかり獄寺に夢中らしい。


『ああ。一言目二言目にはとりあえず獄寺くんだ。うざったらしいことこの上ない』

「それはオレのせいじゃねえし…とにかく、隼人は駄目だ」

『ほお?』


リボーンが面白そうに笑う。ディーノの反応が意外だったらしい。


『そうかそうか駄目か…それなら仕方ないな』

「え…?」


意外な反応といえば、こちらも意外だった。あのリボーンがこうもあっさり諦めるなど誰も思わない。


「い、いいのか?」

『駄目なんだろ?ならもうお前には頼まん』


そう言い放たれ、通話が切れる。携帯電話を握り締めたまま唖然とするディーノ。

まさかよもや自分は…あのリボーンに欲しいものを諦めさせるという偉業を成したのだろうか?


「隼人喜べ!おいロマーリオ、今夜は赤飯だ!!」

「はあ…?いきなり叫んでどうしたのお前。頭沸いた?」


獄寺の辛辣な言葉にもめげたりしない。ディーノの心は今晴れやかだ。


「まあまあ、お前もオレの話を聞けば分かるって…オレはな、あのリボーンに……」


出来たばかりの武勇伝を語ろうとするディーノの言葉を遮るものがあった。獄寺の携帯電話の着信音。

電話を確認して、獄寺が言う。


「わり。そのリボーンさんから電話だ」


嫌な予感がした。

その電話を取らせていけない。そんな予感がした。


「はや―――」


名を呼び、手で制しようとした。

だけど…遅かった。


「はい獄寺です」

『ちゃおっス獄寺。今からちょっとした抗争をするんだが戦力が足りなくてな。一緒に戦っちゃくれねえか?』

「喜んでお供します!!」


ディーノが止める間もなく獄寺いい笑顔ではOKサインを出した。ディーノは獄寺の電話を奪い取る。


「こらリボーン!!」

『ん?何だどうしたディーノ。新たな情報でも入ったか?』

「こんな短時間で入るか!!隼人のことだよ、お前諦めたんじゃなかったのか!?」

『誰がそんなことを言った?オレはお前にはもう頼まないと言っただけだ。だから本人に直接頼んだ。それだけだ』


あっけらかんと言い放ち、当然とばかりに断言するリボーン。ディーノは涙した。


「…何泣いてんだ?」

「何でもねえ…おいロマーリオ、今夜は自棄酒だ!!」


どっちなんだと呆れた突っ込みが入った。



それからすぐ獄寺は並盛へと訪れた。久方振りの並盛は以前来た時と空気が違っていた。

誰もが足早に…まるで何かから逃げるように歩き去り、一箇所に留まろうとしない。

その事情は獄寺も知っている。ディーノの調べ物は獄寺も手伝った。今この街にはマフィアを追放された脱獄囚がいるのだ。

奴らの狙いはボンゴレ10代目である沢田綱吉。素性は知られてないらしく、彼を探すために一般人が犠牲になっている。

マフィアだろうが脱獄囚だろうが表の人間を巻き込んでいいわけがない。裏の人間は裏の人間らしく、裏舞台のみで戦うべきだ。

とはいえ、あちらさんにそんなことを言ったとして通じるわけがないだろう。むしろ嫌がらせのようにわざと一般人を襲う姿が目に浮かぶ。

こちらに目を向けさせるには……向こうの目的のものを眼前に叩きつけてやる必要がある。

思考する獄寺の横、誰かが通り過ぎた。無気力な目。目元に刺青。その男を、獄寺は知っている。


「―――柿本千種だな」

「……?」


振り返れば向こうも振り返っていた。無表情。どこか怪訝顔。


「…誰だ……お前……」

「おいおい、つれない奴だな。お前らがオレを血眼になって探してくれていたみたいだから、わざわざ来てやったのに」