起こり得たかも知れない一つの未来
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挑発するようにそう言えば、柿本の目が鋭くなった。その手にはいつの間にかヨーヨーが握られている。


「お前が…ボンゴレ10代目か……?名前を言え」

「オレの名か。オレは獄寺隼人だ」

「…ランキングには載ってない名前だな……」

「お前らが何の根拠を持って一般人を襲っていたかは知らねえが…だがそれは見当外れもいいところだ。まあ、並中に知り合いなら何人かいるから、それで勘違いしたのか?」

「………」


思考する柿本。獄寺は不敵に笑ってやる。

奴らの目的のもの。ボンゴレ10代目。

しかしまさかあの弱々しい本人を呼ぶわけにはいかない。だから自分が名乗り出る。

奴らはボンゴレ10代目についてほとんど知らない。せいぜいが年の頃と、あとはこの地に住んでいる…といったところか。

だからこそ獄寺のハッタリが効いてくる。幸い自分はあのボンゴレ10代目と年は近く、更に名前も日本人のものだ。クォーターだが。

奴らはある中学校の強い者から順に襲っていると聞いた。ならばもし…仮に。自分も何らかの任務でその学校の生徒をしていたら襲われていた可能性だってある。

向こうの情報の中に自分の名がない。それさえ除けば獄寺が襲われる理由は十二分過ぎた。獄寺の実力も対面する柿本なら感じ取ってくれるだろう。


不信感は拭えられず、無害と放置されるわけがない。


何故ならこちらは奴らの狙うボンゴレ10代目を名乗り、奴らの情報を掴んでいるのだから。

柿本は息を吐き、小さく何かを呟いた。めんどいと聞こえた。なんだとこの野郎。


「…なんでよりによってオレがボンゴレを見つけるんだ…面倒くさい」

「ご挨拶だな。オレを捕まえればお前の敬愛する骸だって褒めてくれるぜ?」


更に挑発。柿本の眉がぴくりと動く。


「……そうだな。お前のことは正直どうでもいいが…骸様のためなら仕方ない」


よし、食いついた。


「面倒といえばこっちだって面倒だ。お前らみたいな雑魚をいちいち相手するのはな。仲間を呼んでいいんだぜ?見当外れに一般人を一生懸命襲ってる間抜けな連中をな」

「必要ない。お前の相手などオレひとりで十分だ」

「そうかよ」


流石にそこまでは望めないか。獄寺はあっさり諦める。

ならばこいつを倒し、携帯か何かで仲間を誘き寄せるしかないだろう。早くしないと一般人の犠牲が増えるばかりだ。

獄寺はダイナマイトを取り出した。

だが…


「ご、獄寺くん!?」

「!?」


知っている声が自分を呼んだ。

見れば今自分が騙っているボンゴレ10代目本人がリボーンを肩に乗せ、驚いた顔でこちらを見ていた。

不味い。ここで相手に彼こそが本物のボンゴレ10代目だと知られるわけにはいかない。

獄寺は必死に目で訴えた。


"訳あって今オレがボンゴレ10代目ということになってます!ご協力を!!"


ツナはよく分かってないようだが、リボーンには通じたようだ。ツナに小声で何か喋り、ツナはハッとした表情でまたこちらを見る。


「あれは…伝説のヒットマンのリボーン……するとあの子供もボンゴレの関係者か?」

「まあ、そんなところだ」


出来ることなら無関係の一般人であると言いたかったが、リボーンの存在がある以上それは通じないだろう。


「だがそんなことはどうでもいいだろう。お前らの狙いはオレのはずだ。それともリボーンさんにも用があるのか?」

「………いや。アルコバレーノに用はない。オレが用があるのは…お前だ!」


言って、千種はヨーヨーを振り上げる。中から針のようなものが無数に出てきて……獄寺ではなく、ツナに向けられて飛んだ。


「!?ちぃっ!!」


獄寺は針の前に躍り出た。無数の針が胸に刺さる。


「ほお…仲間を庇うとは、聞いた通り随分と甘いんだな」

「獄寺くん!!」


少し感心したような千種の声を前、取り乱すツナの声を背後から聞きながら、獄寺は身体から血を吹き出しながら倒れた。

急速に冷える身体。指先さえ動かなくなる。獄寺は朦朧とした意識の中、自分が毒を食らったことを知った。

そしてそのまま、意識を失った。


目が覚めると、そこはどこかの部屋。自分はベッドの中。


「………」


視界に見えるは白い天井、点滴と輸血の袋。

それらを見ながら、獄寺は記憶の途切れる前を思い出す。

無気力な目。ヨーヨー使い。ハッタリをかまして…現れる本物。ツナに放たれた針を、自分が…