起こり得たかも知れない一つの未来
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ある程度思い出し、獄寺は思考を切り替える。
何故奴は自分ではなく、ツナを攻撃したのか。
ハッタリを見破られた?確かにぱっとでの自分よりあのリボーンが傍にいるツナの方が可能性は高いかも知れない。事実自分は偽物で、奴が攻撃したツナこそが本物だ。
…だが、その可能性は薄いだろうと獄寺は考える。たったあれだけの時間でツナが本物であると見破られるなら、最初から襲っているだろう。
それに人間は勢いに呑まれて得た情報を本物であると思い込むものだ。それがどれだけ根拠がないものであっても。たとえ、口頭で告げられただけのものであったとしても。
ならば、まだハッタリを見破られてない可能性がある。
そういえば柿本はツナを庇う獄寺を見て何かを言っていた。確か仲間をどうとか、甘いとかなんとか。
………。
奴は…恐らくはまだ自分がボンゴレ10代目であると思っている。
その上でツナを攻撃し、獄寺の反応を見た。
奴らが事前に仕入れた"ボンゴレ10代目"の情報が正しいなら、仲間を庇うだろうとそう思って。
思わずしてしまった行動が、自分のハッタリをますます強化してしまったらしい。願ったり叶ったりだが。
なら、このハッタリを活かさない手はない。
獄寺は起き上がろうとし…ベッドに倒れる。くらくらする。血が足りない。
「まだ寝とけ。死にかけたんだぞ、お前」
声が聞こえた。
聞き覚えのある声だった。
声が聞こえた方を見れば、そこには懐かしい顔があった。
「シャマル…?」
「よお。久し振りだな」
呆けた声が出てしまった。その再会があまりにも意外過ぎて。
シャマルが乱暴に獄寺の頭を撫でる。その手は心配の手だ。シャマルは言葉に出さない代わりにこうして行動で思いを伝える。
「女しか診ないんじゃなかったのか?」
「お前だけは特別だ。昔、お前が怪我をするたびに診てたのはどこの誰だ?」
そういえばそんなこともあったな、と獄寺は暫し回想。
お前はやんちゃだったから生傷が絶えなかったなと笑うシャマル。しかしそんなことを言われるのは獄寺としては心外だ。
自分は別にやんちゃだったわけではない。あれはただ逃げ回っていただけだ。姉の料理という名の、毒物から。
姉の存在を思い出し、思わず顔色を悪くする獄寺。彼女の存在はもはやトラウマだ。
思い出すだけでこれなら実際会ったらどうなってしまうのか。最も、あの姉と会う確率なんてゼロに等しいのだが。
…などと。そう思ったのがいけなかったのかも知れない。
唐突に、ドアが開かれた。
「シャマル。戻ってくるのが遅いけどまさかあんた私の可愛い隼人が天使の顔で無防備に寝てるからって悪戯でも仕掛けてるんじゃ………」
現れたのは今まさに獄寺が会う確率なんてゼロに等しいと思ったトラウマの塊ビアンキ。
二人の目が合い、片方は目を潤ませ片方は腹を抑えた。
「隼人…隼人!!よかった、目を覚ましたのね!!」
「ビアンキちゃんビアンキちゃん、隼人は今起きたばかりなんだ。あまり無理させちゃいけねえ」
今にも飛びかからんとするビアンキを見かねたシャマルが止めてくれる。ナイスシャマル。愛してるぜ。と獄寺は思った。
「ちょっと邪魔しないでよ殺すわよ」
純度100%の殺気。姉の恐ろしさは変わらずだった。
「殺されちゃたまらんが、医者として引くわけにもいかないね。隼人の顔色を見ろ。悪いだろ」
「あら本当。さっき様子を見に来た時よりずっと悪いわ…大丈夫?」
ひとまず姉貴が出てってくれれば大丈夫になるよ。
獄寺は内心でそう呟いた。しかし通じるわけがない。あの姉に。
姉を必死に視界に入れないよう努める獄寺の耳に、誰かの足音が入った。小さく、遠慮がちに響く音。
「ご…獄寺くん、目が覚めたの?」
「ボンゴレ10代目…」
現れたのは、自分が庇った頼りない少年だった。
シャマルとビアンキには席を外してもらい、部屋の中には獄寺とツナとリボーン。それから山本と名乗る日本人。
聞いた話、自分が倒れたすぐあとにあの場に駆けつけ柿本を一掃したらしい。
「あとちょっとでとどめさせたんだけどなー」
何やら恐ろしいことを言ってる気がする。
「ご…獄寺くんごめんね。オレを庇って…」
「……いや、いいんだ。ボンゴレ10代目を怪我させるわけにはいかないし…それに、あの一件で更に向こうはオレが時期ボンゴレ10代目候補だと思ったはず。これを活かさない手はねえ」
「お前、そんな身体で囮をするつもりか?」
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