起こり得たかも知れない一つの未来
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今まで黙っていたリボーンが口を開いた。いつも笑みを携えているはずの顔は、今は無表情だった。
「囮というほどではありません。相手を混乱させて、ボンゴレ10代目の負担を減らすだけです」
「何故ツナを庇った」
リボーンの声は冷たい。
「あの場にはオレもいた。オレは掟で生徒の戦いには手を出せないが…降り掛かる火の粉を払うぐらいは許されている。お前は無用な怪我を負っただけだ」
「おい、リボーン!」
「すいません」
リボーンを怒鳴るツナに、困ったように笑う獄寺。
「確かにその通りです」
リボーンの言う通り、あの場で獄寺が柿本の攻撃を見送ろうともどうとでもなっただろう。
リボーンが針を撃ち落としたかも知れない。攻撃を避けさせたかも知れない。そもそも、あのリボーンに毎日指導を受けているツナなのだから自力でどうにか出来たかも知れない。
けれど、あの行動は獄寺に言わせれば仕方ないのだ。
「ですが…勘弁願います。…身体が、勝手に動いたもので」
儚い笑顔で獄寺が言う。
リボーンは帽子を間深く被り直した。
「…まあいい。だが来るならオレの指示に従え。お前に単独行動させるとあっさり死にそうだからな」
「随分とオレを気に掛けて下さるんですね」
「勘違いするな。お前はキャバッローネからの"借り物"なんだ。お前に何かあるとディーノにどやされるんだよ」
リボーンさんならうちのボスにどやされたところでどこ吹く風と受け流しそうだけどな。と思いつつも獄寺は曖昧に返事をする。
「…獄寺くん……本当に…一緒に行くの?」
悲痛な表情で心配そうにこちらを見てくるのはツナ。自分より辛そうだと獄寺は思った。
「…ああ。元々オレはリボーンさんに抗争の助っ人として…一緒に戦ってほしいと頼まれて来たんだ。オレはまだ誰とも戦っちゃいねえ。このまま帰ったら恥で死んじまう」
「でも…」
なおも食い下がろうとするツナ。
そして助け舟は意外なところから現れた。
「まーまー、いいじゃねえかツナ」
柿本を一掃したという、ボンゴレファミリーにスカウトされたと聞く…一般人の山本が笑いながらツナに言う。
「こいつの意思は硬そうだ。オレにも分かるぜ?腕を怪我しても試合があるとなるとどうしても参加したいもんなんだ」
「山本…野球と一緒にしないでよ……」
「スポーツだからって甘く見ないでくれよ。…とにかく、こいつ…ええと、獄寺だっけ?が危ない目にあいそうになってもオレたちがフォローすれば問題ないって!」
甘い考えだ、と獄寺は思う。一般人にされるフォローなどありはしない。といっても、これに乗らなければ抗争に連れて行ってもらえない空気なので黙っている。
結局、ツナは折れた。
獄寺の身体も多少のふらつきがある程度で動き回るのに問題ない。
むしろ、このあと堪えきれずに乱入してきたビアンキ騒動を収める方が大変だった。
「今獄寺が10代目なんだろ?」
騒動も収まり、敵の本拠地である黒曜ランド跡地へ向かう途中。山本が確認するようにそう聞いてきた。
「…ああ、そうだ。誰に聞かれてるか分からねえんだから、もう聞くなよ」
睨みつけてくる獄寺を気にせず、山本はとある提案をする。
「なら、オレは右腕な!!」
「…は?」
右腕。10代目の。何故だろう、心に引っかかる単語だ。
「小僧が言ってたんだ、ボンゴレ10代目たるもの右腕になる人物を携えなければならないって。オレ立候補するぜ」
…小僧とはまさかリボーンさんのことだろうか。獄寺は頭痛を覚えた。なんて畏れ多い。
それに言うことは一応正しいが、能天気な顔で言われても色んなものが台無しだ。
しかし獄寺は納得する。一般人として暮らしていた奴がこれから死地に行くというのに怯えや緊張が一切見えない訳を。
(こいつ…遊び気分か。まさかオレたちが本物のマフィアであると信じちゃいない?)
多少の憤りを感じる獄寺だが、怒っても仕方ないと感情を無視する。確かに急にマフィアにスカウトされたとして、この国で本気に取るほうがおかしい。自分のいた、あのスラム街ならばともかく。
「ん?どうした?」
「いや…何でもねえ。あー…右腕だったか?オレの邪魔をしないなら好きにしろ」
「マジで!?やったーーー!!」
子供のように喜ぶ山本を冷たい目で見る獄寺。
どうせ戦いが始まったら真っ先に逃げるに決まってる。死闘をする覚悟もない奴が近くにいられても迷惑なだけだが黙っておく。
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