起こり得たかも知れない一つの未来
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「…待った!」


そう考える獄寺の思考を遮る声。見ればツナが片手を上げて意見を申し立てていた。


「ど…どうしたよ、ツナ」

「獄寺くんの右腕は…オレがなる!!」

「………」


獄寺の頭痛が酷くなった。

ボンゴレ10代目…お前もか。

獄寺は幼子を引き連れる保父になったような気分を覚えた。


「獄寺。呆れるのは分かるが、我慢してやれ」


ふと、肩に小さな重み。耳元で囁かれる。

慌ててみれば、自分の肩にあのリボーンが乗っていた。


「り、リボーンさん!?」

「なんだ?どうした」

「い、いえ…」


何故だかこの方が自分の肩に乗るなんてありえないと思った。乗るとしてもあと二つばかり大きな事件が起こったあとだと獄寺は思った。何故か。


「嫌われてるより好かれてる方がいいだろ?"10代目"?」

「………そうですね」


確かに余所余所しくされるよりもある程度好意を持たれている方が好ましい。まさか初対面であるにも関わらず山本に気を遣われたのだろうか?だとしたら不覚だ。


「よーしツナ!じゃあ勝負な!この野球ボールを遠くまで飛ばした方が勝ち!!」

「それオレに勝ち目ねーーー!!!」


あ、こいつやっぱ遊んでるだけだ。

獄寺はそう確信した。

その後何かを考え込み、黙っていたビアンキが「なら間を取って私が隼人の右腕になるわ。姉弟で10代目と右腕なんて燃えるでしょう?」と言い放ち慌ててみんなで止めた。



そんなことがありながら黒曜ランドに着き対犬戦は飛ばしてランチア戦。


「お前が…六道骸?」

「ああ…そうだ」


いきなりの敵陣ボスの出現に緊張感が走る一行。

だが、対面する獄寺はどこか違和感を拭えないでいた。何かがおかしい気がする。

確かに自分たちが仕入れた情報によると、目の前の奴こそが六道骸だ。骸の写真は獄寺も見ている。

だが…柿本や城島が慕う六道骸とは、こんなところで自ら出てくるような奴なのだろうか?

獄中にいた彼らの様子。それから推測する骸の性格はまず自分の部下を向かわせこちらの消耗を誘い、そして最後に出てくるような奴だと思ったのだが…


「…どうした?」


思考する獄寺にランチアが声を掛ける。獄寺は考えを打ち消す。


「いや…なんでもねえ。怪しいところはあるが、ようは倒せばいい話だ!!」


そうして戦いが始まった。その中で獄寺は更に違和感を蓄積していく。

攻撃が単調すぎる。

鉄球使いとは当たれば恐ろしいが、これほどまで単調だと避けるのも容易い。他のみんなも避けている。

それに…攻撃に殺気を感じない。

まるで戦うのは自分の本意ではないような。嫌々戦っているような…そんな印象を受ける。

どういうことだ?奴らの…骸の狙いであるボンゴレ10代目が目の前にいるというのに、この…ある意味ふざけているとすら取れる行動は。

獄寺は考え、そして自分のことを思い出した。奴がそうだと考えると、途端に符号が一致した。


「お前」


不意に獄寺は立ち止まり、ランチアに言う。


「…?なんだ」

「お前…六道骸じゃねえな?」


ランチアの眉がぴくりと動いた。ツナと山本が驚く。


「え…!?」

「どういうことっすか!?10代目!!」


山本。その喋りはどうにかしろ。

獄寺は内心で苛立った。彼の言う「ボンゴレ10代目の右腕」とはあのような口調らしい。何故だろう、腹立だしい。


「お前は…六道骸の偽物だな。本物に脅されてかなんなのかは知らねえが…嫌々戦うような奴と遊んでる暇はねえんだ」


獄寺自身も現在ボンゴレ10代目の偽物を演じているからこそ、こうも早く相手も偽物であると見破れた。

そう、獄寺たちが仕入れた骸の情報。

奴は利用出来るものなら何でも利用する。そして使えなくなったらゴミのように捨てるのだ。


「オレは…」


戸惑うランチアを前に、獄寺は身体に異変を感じその場に膝を付いた。


「ぐ…!?」

「獄寺くん!」

「10代目!!大丈夫っすか!!」


お前その喋りどうにかしねえとあとで殺すマジ殺す。


一瞬そう思うが身体の燃えるような痛みで思考が分断される。柿本に攻撃された場所が火を噴くように痛い。

たまらずその場に倒れ込む。痛みは激しさを増し、獄寺の意識は刈り取られるように沈んだ。