起こり得たかも知れない一つの未来
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「……………」


終わった…のだろうか。

終わった割にはあっさりしない。後味が悪い。

無論、全ての終わりがあっさりしていて、後味のいいものではない。むしろこんな気持ちを味わう方がほとんどだ。

だが……


(こいつはどうせ死ぬならオレたちを一人でも多く道連れにするような方法を取ると思ったんだが…オレの考えすぎか?)


どうにも腑に落ちない。何かが……おかしい。

と、獄寺の身体を痛みが襲う。


「ぐ……っ」

「獄寺くん!?」

「隼人!?」


解毒の副作用がまた来たらしい。身体の内側から火で炙られるような痛みを味わい、獄寺は膝を付く。

瀕死の柿本と犬が壁をぶち破って現れたのは、そんなときだった。


(何…!?あいつら動けるような状態じゃなかっただろ!?)


どういうことだと考える間もなく、獄寺は骸の持っていた槍の攻撃を受け血を流す。

途端、まるで別人になってしまうかのような、自分が自分でなくなってしまうかのような感覚を覚え、それを最後に獄寺の意識は途切れた。



「……く、ふ、クフフフフフフフフ」


奇妙な笑い声を発しながら獄寺が立ち上がる。しかしその目は、その雰囲気は明らかに獄寺のものではない。


「ついに…ついにボンゴレ10代目の身体を乗っとりましたよ…!!」


狂気の目で叫ぶ獄寺。しかしその中にいるのは先ほど自害した骸。


「喜んでるところ悪いんだがな、獄寺はボンゴレ10代目じゃねーぞ」

「…なに?」

「お前らでいうランチアと同じだ。獄寺はボンゴレ10代目の影武者。…まさかここまで騙されてくれるとはな」

「何を馬鹿な…冷静な状況判断、身を挺して仲間を庇う姿、率先して戦う勇士……彼以上の人間が一体どこにいるというのです?」

「……………」


ツナは物凄く居た堪れなくなった。


「まあいいでしょう…嘘かどうかなんて彼の記憶を見ればすぐに分かることです」


言って、暫し目を瞑る骸。

そして骸は、突如膝を付いた。


「!?」


何が起こったのだと混乱するツナ。彼は一体何を見たのか。

骸は目頭を押さえていた。泣いてるようだった。そして涙声で言う。



「この子可哀想…!!」



どうやらかなり不幸な獄寺の過去を覗き見してしまったらしい骸。何を見てしまったのだろう。


「く…!!こんな不幸な子がそれでも頑張っている中僕は一体何をしようとしていたのでしょう。僕は自分が恥ずかしい!!」


なにやらヒートアップしている骸。しかしオーバーリアクションで動き回されているのは獄寺の身体。可哀想だ。


「…僕は目が覚めました。僕たちはこれより全面的に隼人くんのバックアップに付きます!!」


高らかにそう宣言し、獄寺の身体を乗っ取ったまま立ち去ろうとする骸。


「………ってちょっと待てーーー!!!」


慌ててツナが止めに入った。



「う……」


気が付くと救護班の担架の上だった。


「………」


何がどうなったのだろうか。

骸は…そしてボンゴレ10代目は……


「気が付いたか」


声が聞こえ、見ればそこにはリボーンがいた。


「リボーンさん……終わったんですか?」

「ああ。ここまで早期解決出来たのはお前の機転と行動力があってこそだ。よくやった」


憧れの人物であるリボーンに褒められて獄寺の胸が高鳴った。自然に頬が緩む。


「…気を失ってばかりで、役に立てた記憶がありませんけどね」

「んなことはねえと思うが…そう思うなら、次の機会に頑張ることだな」

「ええ、そうさせてもらいます」


微笑み、その場に暖かな空気が満ちる。

―――そこに、荒々しい足音を立てながら誰かがやってきた。


「隼人!!」


現れたのはディーノだった。足を縺れさせ、転びそうになりながら獄寺に駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「よお。…見ての通りだ。生きてる」

「怪我の具合はどうだ!?毒を食らったとも聞いたが……大丈夫なのか!?」

「ああ、大事ねえ。そう心配すんなって」


獄寺にそう言われても不安そうにこちらを見遣りおろおろする自分のボスがおかしくってたまらない。

…そして、こんな自分をこうまで心配してくれるのがありがたくって仕方ない。

キャバッローネファミリーでよかった。

そう思いながら、獄寺は目を閉じた。


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ただいま、ボス。