IF ヴァリアーの場合
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所変わって、とある一室。

その部屋に長い銀髪の男が乗り込んできた。

彼こそザンザスの片腕を務める剣士…スクアーロである。


「う"お"ぉおおおおおい!!ボスがいねえけどどこに行ったああああああああ!?」

「ボスなら究極のお肉を捜しにいくとか言って出てったわよお〜」


特徴的な口調に答えたのは、身振り特徴がやけに女性的な……筋肉質な男。

彼はザンザスの部下にしてスクアーロの同僚のルッスーリア。


「オレも着いて行くと言ったのだが…断られた」


部屋の隅で重い空気を作りながら落ち込んでいるのはザンザスを盲信しているレヴィ・ア・タン。彼は今体育座りをしうじうじしている。


「究極の肉…か。んなもんがそう簡単に見つかるとは思えねえけどなあ」


スクアーロが嘆息を吐くと同時、突如扉が蹴破られた。木製の扉が吹っ飛び、銀髪の男にぶち当たる。


「ぎゃああああああああ!!!」

「きゃああ!!ちょっと大丈夫!?」

「お、おお…」

「ああ…っ駄目ね。扉ぼろぼろ。買い直さなきゃ」

「ってえ、オレの心配じゃねえのかああああ!!」


銀の髪を血で紅く染めながらスクアーロは叫び、扉のあった場所の向こうを睨む。

そこから顔に傷のある男が現れる。

我らがザンザスである。


「戻ったぞ」

「おお!ボス!!」

「てめえはドアを手で開けることを覚えやがれ!!」


弾んだ声を上げるレヴィと正論を言うスクアーロを無視し、ザンザスはルッスーリアに手に持っていた塊を放り投げる。


「洗っとけ」

「え?ああ、究極のお肉?………って人間じゃない!やだボス究極のお肉って人肉のことだったの!?」

「う”お”ぉおおおいボスさんよお、カニバリズムにもう目覚めたのかよ……まだ早くね?」

「そいつは食用じゃねえ。…殺すなよ」

「はーい。まあまあこの子身体が冷えきっちゃってるじゃない。お風呂に入れないと」


ルッスーリアが退室するのを見ながら、スクアーロがザンザスに話しかける。


「んだあ?喰わねえってことは……飼うつもりか?」


冗談交じりに言ったスクアーロの言葉に、帰ってきた答えは…


「まあ、そんなところだ」


という、そんな笑みを含んだ珍しい声。



ルッスーリアが投げられた塊……もとい、獄寺を風呂に入れて清め、ベッドに横たわらせる。

泥や埃で汚れていた身体は洗われ、捨てられていたとは思えないほど綺麗な姿が現れた。

思わずルッスーリアが見惚れていると、その視線に気付いたのか獄寺の意識が回復し、目を覚ます。

ゆっくりと瞼を上げた獄寺の目に飛び込んできたのは、いかつい男の顔。


「あら、起きたの?」

「………!?」


獄寺は思わず飛び起き、距離を置き、壁に背を付ける。

そんな獄寺の様子に全く意を介さず、ルッスーリアは獄寺に背を向ける。


「ボスー、坊やが目を覚ましたわよー!!」


ルッスーリアはぱたぱたと足音を立てながら部屋を出て行き、そしてすぐに戻ってきた。数人の人間を引き連れて。

獄寺の警戒の色が更に強くなる。

その眼を見て、ザンザスは笑った。



最初に言葉を発したのは、レヴィ。


「おい、貴様!わざわざボスが拾ってくださったのだぞ!!礼の一つでも言ったらどうだ!!」

「………」


2メートル近い男に怒鳴られるも、獄寺は怯まず無言で睨み返す。


「口が効けないのかしら?お腹空いてない?リクエストがあれば作るわよ?」


身体をくねくねさせながら聞いてくるルッスーリアに、困惑顔を浮かべる獄寺。

どうやら獄寺にとってルッスーリアは今まで会ったことのないタイプの人間らしく、どう接すればいいのか分からないらしい。


「…くだらねえ。こんなガキの様子なんざどうでもいい。オレは仕事に戻る」


早くもスクアーロは興味をなくし、部屋を出ようとする。

扉から出る直前、スクアーロはせめてもの慈悲なのか、振り返らずに言い聞かせる。


「どんな事情があったか知らねえけどなあ…安心しないほうがいいぜ?なにせうちのボス様は、お前を飼うつもりらしいからなあ」

「っ!」