IF ヴァリアーの場合
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概ね人間に対して使われるとは思えない言葉を聞き、獄寺は歩き出すスクアーロに眼をやり…続いて拾われたときの記憶があったのか、ザンザスに視線を向けた。
その眼から伺えるのは、警戒と敵意。
ザンザスはその眼を一身に受けながら、ニヤニヤと笑っている。
「そういうことだ」
短い言葉からは有り余るほどの威圧感が発せられ、獄寺を貫く。
「精々、オレを愉しませろ」
ザンザスが手を伸ばし、獄寺に触れようとする。
獄寺はその手を払い、嫌悪の眼でザンザスを睨めつける。
「貴様!せっかくのボスの好意を…!!」
顔を赤くしながら怒鳴り、パラボラで獄寺を刺そうとするがザンザスに制しられ、動きを止める。
「そうだ、それでいい」
「ボス!?」
「簡単に懐いて尻尾を振る駄犬になんざ興味はねえ。逆に噛み付いてくるぐらいの威勢がねえとつまんねえ」
「………」
自分のした行為が逆にザンザスを喜ばせてしまい、獄寺は内心で腸を煮え返らせた。
そんな獄寺の心情を知ってか知らずか、ザンザスは満足したとばかりに背を向ける。
「逃げたきゃ逃げろ。殺したかったら殺せ。出来たらの話だがな」
ザンザスはルッスーリアに獄寺の世話係を言い渡すと、退室した。
「…噛み付くぐらいの威勢がないとつまらぬ、か…流石はボス。その通りだ」
「そう思うならあんたも噛み付いてみたら?尻尾を降るような犬に興味はないみたいだし。…さて、ええと…僕?お名前は?」
「………」
獄寺は何も言わず、口を閉ざしている。飼うと言われ、犬扱いされ、彼の胸の内は警戒心でいっぱいだった。
「困ったわねえ。文字は書けるかしら?」
「名など、適当に付けたらどうだ。捨て犬にわざわざ名前を聞く馬鹿はおるまい」
「それもそうねえ。ええと…じゃあアルジェンテオとかにする?それともズメラルド?」
「…誰が銀色に翠玉だ!………獄寺だ」
「あら。やっとお話してくれたわ。アタシはルッスーリア。こっちの厳ついのはレヴィよ。よろしくね、獄ちゃん」
「誰が獄ちゃんだ誰が!!」
喚く獄寺を二人は無視する。
「よく鳴く奴だ。本当に犬かこいつは」
「最初に部屋を出ていった銀髪がスクアーロで、獄ちゃんを拾ったのがうちのボスのザンザスよ。殺されないようにね」
「…ボス?」
「そう。ヴァリアーっていう組織のね。…知ってる?」
試すような口調のルッスーリアに、獄寺はあっさりと答える。
「…ヴァリアー。ボンゴレファミリー最強と謳われる闇の独立暗殺部隊…」
「ぬ!貴様、そこまで知っているとは一般人ではないな!?まさかどこぞのファミリーのスパイか!?どこの者だ!!」
敵愾心をむき出しにするレヴィに、獄寺は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……どこのもんでもねえよ。オレは…」
「ぬ…?」
「獄ちゃん?」
どことなく重い、気不味い空気が辺りを漂い始める中、室内に二人ほど入ってきた。
「ボスが何か面白いもん拾ったって聞いたけど、なになに?」
「ベル…キミが何に興味を持っても構わない。どれほど無駄な時間を過ごそうともキミの自由だ。…だけどそれに僕を巻き込むな!!」
現れたのは、獄寺より少し年上と思われる金髪の少年と…その少年に片手で抱えられている赤ん坊。
「ああ…紹介するわ獄ちゃん。ベルとマーモンよ」
「面白いかどうかは知らぬが、ボスが人間を拾ってきた。名は獄寺だと」
「ほおお。綺麗な髪してんじゃん。で、これ何?サンドバック?砥石?殺していいの?」
「ふうん…見てくれはまあまあだね。教育して売ったらそこそこの小遣いにはなるかも」
ジロジロと見られ、勝手なことを言うベルとマーモンに獄寺の表情がまた険しくなる。
ルッスーリアはやれやれとため息を吐きながら、ベルとマーモンに釘を刺した。
「殺さないようにってボスが言ってたわ。それに気に入ってるみたいだから売り飛ばすのも禁止」
「んだよつまんねーの…ナイフの試し切りも駄目?」
「駄目」
にべもなく断られ、ベルは不満気に頬を膨らませた。
「んだよー、オレは王子だぞー」
「はいはいはいはい。そろそろおやつの時間ね。今日はケーキを焼いたから、お茶にしましょう」
ルッスーリアは手馴れた様子で話題をはぐらかせる。
獄寺の受難は、ひとまずは回避された。
…最も、あくまでそれはひとまずにしか過ぎなかったのだが。
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