IF ヴァリアーの場合
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一人になり、獄寺はこれからについて考える。

先程までは、獄寺は逃げ出すつもりでいた。一刻も早く、ここから。

だが…


ヴァリアー。


あの名高きファミリー、ボンゴレの独立部隊。

獄寺の目的はどこかのファミリーに入ることで、それがボンゴレであるならば文句などあろうはずもなかった。

獄寺はこの場に留まることも考えた。

が…


(…駄目だな)


結局は否定した。

獄寺は自分の力で、相手を認めさせてファミリーに入りたいのだ。

拾われて犬のように飼われるなど有り得ない。

獄寺は身体の調子を確かめる。

元より怪我をして動けなかったわけではない。倒れていたのは単に疲労で、少し寝た今は大分具合が良くなっていた。

今は誰もおらず、拘束もされてない。

脱走するなら今がチャンス。



そう思い窓から脱走を図る獄寺だったが…結果から言って、無理だった。

外には見回りの人間が配置されており、あっという間に見つかってしまったのだ。

不審者として追い出され(あるいは殺され)ないかと思ったが、既に話は行き届いているらしく部屋に連れ戻された。

話の端々から推測するに、どうやらスクアーロが手を回していたようだ。全く、余計なことを。

そして部屋についたところでルッスーリアと鉢合わせし、ますます獄寺は逃げれなくなった。


「あら?お散歩にでも行ってたのかしら?言ってくれれば案内したのに」


くねくねと身体をよじらせるルッスーリア。その手には一ピースのケーキ。


「まあ案内はあとにして、まずはお茶にしましょう。紅茶も美味しいのが入ってるのよ〜」


ルンルンと弾んだ声を上げながら手際よく支度をするルッスーリア。

獄寺はいやがおうにもベッドに戻され、目の前にケーキと紅茶を置かれる。


「さ、召し上がれ。自信作なのよ♪」


筋肉質のオカマに期待を満たした眼で見つめられる。

このまま無視し続けても最終的には無理やりにでも口に詰め込められそうだと、獄寺は諦めてフォークを手に取った。

ちなみに味の方は…


(なんで美味いんだよ!!)


と、育ちのいい獄寺が唸るほどであった。

せめてもの抵抗か、無言のしかめっ面で胸の内を明かさぬよう努める獄寺だが意味はなく。


「気に入ってもらえたみたいね!よかった♪」


あっさりとルッスーリアに見破られる。

ルッスーリアは笑いながら、嬉しそうに獄寺を見、何故か獄寺の身体を突き出す。


「…何すんだよ」

「んんー…綺麗な身体してるけど…筋肉が足りないわあ。残念ねえ…もっと鍛えられてたら……殺してアタシのコレクションに加えたのに」


なんてことないように、当たり前のように紡がれた言葉。

ぎょっとしてルッスーリアを見遣る獄寺を、ルッスーリアは平然と見返す。


「ん?どうかした?紅茶のおかわりかしら?」


ルッスーリアは先ほど自分が言った言葉の異常性に気付いていない。

彼にとってはそれが当然で、当たり前で、常識なのだ。

その事に気付いた獄寺の背筋に冷たいものが走る。

一見ふざけているように見えても、世話を焼いてくれても、ここにいる奴らは全員頭のネジが吹っ飛んでる。


「あ…ああそうそう。殺しちゃダメだったのよね。ごめんなさいね」


ザンザスに言われたことを思い出したのか、ルッスーリアは軽く謝罪した。

しかしそれはあくまでザンザスに言われていたことを忘れていたことの謝罪であり、獄寺を殺すことについては全く問題に思ってないことは明白で。

獄寺は改めて脱走する決意と、彼らに心を開かない意思を固めたのだった。



後日。

改めて獄寺のことは話しておいたから、アジト内において好きに過ごしていいと言い渡され、獄寺はヴァリアーアジトを探索していた。

誰かとすれ違えば、その度に奇異の視線にさらされ、話し声が聞こえ…獄寺の機嫌が悪くなる。

ザンザスとはあの日以来会ってない。もう獄寺のことなど忘れているかもしれない。

それでも"ボスのお気に入り"という触れ込みで知られる獄寺にわざわざ話しかけてくる人間などほんの数人だ。

一人は世話係を任命されているルッスーリア。

それから…


「お!いたいた、おーい、そこの犬っころ!!」

「………」


ヴァリアーの幹部の一人。ベルフェゴールこと、通称ベル。

獄寺と年が近いからなのか興味があるのか何なのか、会った次の日から何かとちょっかいを出してくる。