IF ヴァリアーの場合
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「うしし、そう警戒すんなって。オレは非戦闘員には手を出さねーんだよ」


どうやら誰かに釘を刺され説得されたらしい。これで獄寺が戦闘員扱いであったなら間違いなく血が流れていただろう。


「お前ボスの手を払ったんだって?よく生きてたなー。殺されても仕方なかったぞ」


言いつつベルも獄寺に手を出してくる。獄寺はザンザスにしたのと同じようにベルの手を払った。ベルが笑う。


「おもしれーなーお前!犬って聞いたけど猫みてー!!ところでなんで喋らねえの?」

(馴れ合うつもりはないし、何を言っても話が通じなさそうだからだ!!)


と、獄寺は心の中で告げる。ついでにベルから顔を背ける。


「おいおい本当に命知らずだなお前…それとも何?ボスのお気に入りだから誰にも手を出されないって、高を括ってるわけ?」


ベルの声色が少し低くなる。

それに気付き、獄寺が振り向けば…ベルはその手にナイフを握っていた。


「まあ確かに?殺さないようにって言われてるけど?でもペットと遊んでいるうちに怪我させちゃうことなんて普通にありえるし…殺しちゃうことも罪ない子供の過ちで許されるし?」

(明らかに殺す気満々じゃねーか!!)


隠す気もない殺意を浴びながら、獄寺は冷や汗を掻く。しかし殺されるつもりなど毛頭もない。


「うっしっし〜、死ねっ」


放たれるナイフを紙一重でかわし、獄寺はカウンターの拳を放つ。


「いてっ…やるじゃん」

「………」


ベルの隙がなくなる。

先ほど獄寺の攻撃が当たったのは、ベルが油断していたからだ。完全に遊び気分で獄寺を殺そうとしていたから。

けれどその油断が、消える。

獄寺はベルから目を離さぬまま、足元に転がるナイフを持ち、構え…


「なぁあああにやってんだあああああああ!!!」


そこに鼓膜が破れるかのような大声が響き、頭上に衝撃が走る。

頭を抑えながら前を見れば、ベルも同じように頭を抱えていた。

現れると同時、叱咤しながら二人を殴ったのはヴァリアーの2の実力者たるスクアーロ。


「ベル!!手を出すなって言っといただろ!!もう忘れたのかお前は!!」

「違う、違うんだって。これはあれだ。遊んでたんだよ、うん」

「あんだけ殺気振りまいといてナイフ構えて遊んでたわけあるかああああ!!」

「スクアーロってばおっくれってるぅ〜。王族ではペットとは殺すつもりで遊べっていうしきたりが…」

「あってたまるかそんなもん!!…とっとと行け!!今日は任務が当てられてただろ!!」

「おー、そうだったそうだった。仕方ねえ。じゃあな三毛猫ちゃん。また遊ぼうぜ〜」


最後まで飄々としつつ、ベルは去っていった。


「全くあいつは……」


呆れたような声を出すスクアーロは、もう獄寺を見ていない。

獄寺に背を向けたまま、スクアーロは独り言のように言葉を吐いた。


「知らなかったとは言え、ベル相手にナイフは使うな。あいつが血を見たらオレでも抑えるのに苦労するからな」

「………」

「だが…まあ、そのナイフは護身用に持っとけ。ボスの言葉があるとは言え、ここじゃ理由なく殺されても文句は言えねえ。それに…ボスの言葉があるからこそ、殺される理由にもなる」


それだけ言うとスクアーロは何事もなかったかのように歩き去った。

残された獄寺は手にしたナイフを仕舞い、スクアーロと同じように何事もなかったかのように歩き出した。