IF ヴァリアーの場合
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投げかけられる、声。

獄寺は無言で振り返る。鋭いナイフのような眼が映すのは、長らく会わなかったヴァリアーのボス。

対する獄寺は、久しぶりに自分から口を開いた。


「…このアジトの守りは紙か?あっさりと暗殺者に入られてんじゃねえよ」

「わざと泳がせてたに決まってるだろ。お前が気付たことに、オレが気付かないと思ったか?」

「………」


獄寺は毎日のようにヴァリアーアジトを探索するうち、不審な動きをする人物がいることに気付いた。

そいつを探っているうち、裏切り者と判明。外から仲間を手引きし、ザンザスの命を狙う計画を知った獄寺はこうして待ち伏せをしていたのだった。


「まさかお前が自分から来るとはな。どういう風の吹き回しだ?」

「…オレが誰かに言ったところで、信じてもらえるとは思っちゃいねえ。それに…」

「それに?」

「……飼い主様の命が狙われてると知っていながら、尻尾を巻いて小屋の中で震える駄犬にはなりたくなかったからな。同じ犬なら、ボスのために立ち向かう忠犬になりたかっただけだ」


それを聞いて、ザンザスが笑う。


「自ら犬と認めるか」

「ここから抜け出せないなら、入り込むしかないだろ」


獄寺は自嘲気味に笑い、ザンザスを見据える。


「今は犬扱いでも構わねえ。オレをヴァリアーに入隊させろ」


ふんぞり返り、あくまで上から目線の獄寺に、ザンザスはカッカと笑う。


「そいつは構わねえが、知っての通りうちは独立暗殺部隊だ。お前にうちの仕事が出来るのか?」

「殺しなら、今こいつらで証明して見せたろ」


獄寺の周りには、物言わぬ骸の塊。


「時間が掛かりすぎだ」

「悪かったよ」


軽く答え、獄寺はザンザスを見る。

ザンザスは少し考え、獄寺の頭に手を伸ばす。

その手を…獄寺は弾く。


「気安く触んじゃねえ」

「クク…それでいい。合格だ。簡単に懐かれちゃあ、つまんねえからなあ」


闇夜の中、二人は久しぶりに話をし、契約を交わす。

こうして、独立暗殺部隊ヴァリアーの末席に獄寺の名前が刻まれた。

獄寺は下っ端でありながらヴァリアー幹部に何かと目をかけられ、同じ属性からかベルの後釜…もしくは影武者だとも噂された。

そして、ザンザスが自ら仕事に出るときは必ずと言っていいほどその近くには獄寺の姿が有り、ザンザスの露払いをしていた。


その姿は、まるで飼い主に付き従う忠犬のようだったという―――


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気高き銀狼、その行動はただひたすら主の為だけに。