意外な一面
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「隼人…大丈夫か?病院行く?」


多分、誰が見てももうベルをヴァリアーの幹部の一人だとは思わないだろう。

獄寺を弟のように接し、可愛がり、心配するベル。

しかしそう簡単にそうだと理解されるわけがなかった。


「その手を離すんだな、切り裂き王子のベルフェゴール」


殺し屋モードで凄むシャマル。彼から見れば、獄寺がいつ血塗れになってもおかしくないのだ。彼を抱きとめる、ベルの手によって。


「き…切り裂き王子?」


慣れぬ単語にツナが恐々としながら聞く。シャマルはベルから目を離さぬまま頷いた。


「ああ…奴は子供の頃双子の兄をメッタ刺しにして殺害していて、それを筆頭に様々な奴らを遊び半分に殺している。趣味は地元の殺し屋殺し。更に自分の血を見ると我を失い反乱狂になって襲いかかってくるという……」

「………」


ツナは信じられない、といった顔でベルを見る。今目の前にいる彼は普通に心配性の兄ちゃんである。

な視線を当てられ、ベルは不機嫌そうに口を尖らせた。


「まあ、確かにそれは嘘じゃないけど…隼人を切るつもりはねえよ」

「信じられるか!!」

「ま、まあまあシャマル。……本当に…獄寺くんを切ったことないの?一度も?」


ツナに問われ、ベルは少し回想した。

出会った当初の頃は…というかルッスーリアに兄として守ってやれと言われる直前まで、結構切ってた。

ベルは顔を背けた。


「ほれみろ!やましいことがあるんだ!!隼人を切るつもりはないってのは嘘でそのチャンスを虎視眈々と狙ってるんだ!!」

「狙ってねーよ!!」

「嘘に決まってんだろ!!一体隼人にどんなことを言って騙してるんだ!?隼人、正気に返れ!!こっちに来るんだ!!」

「騙すって…一体何の話をしてるんだ?あのおっさん」


いまいち話についていけないベル。その腕の中で、獄寺が動いた。


「あいつはシャマルといってな…」

「ん?」

「シャマルは…昔、オレの城で医者として働いていて…オレもよく世話になったもんだ……」


ベルの胸の中、獄寺は暫し回想に思いを馳せる。

子供の頃、姉を除いては大人ばかりの世界。そんな中でシャマルはよく自分の面倒を見てくれた。

だが…


「あいつはよくオレを騙しては遊んでたよ」


物凄く恨みがましい声色で、俯きながら獄寺が言う。


「は、隼人…?」


思わぬ攻撃にシャマルが怯む。周りの視線が痛い。


「よくも妹が62人もいるとか嘘付きやがって…!!!」



それは騙される方が悪い。



と、ツナは思ったが言えなかった。そしてシャマルの心配を理解した。

妹62人の嘘を信じる。そんな彼ならば確かに誰に騙されても不思議ではない。


「そっちに行って…何をするってんだ?またオレに嘘付いて騙して面白がるのか!?誰が行くか!!」

「ま、待て隼人。落ち着け、話し合おう」


「断る!!」


獄寺がそう断言すると同時、シャマルの顔面にパイが叩き込まれシャマルが崩れ落ちる。それをしたのは獄寺の姉たるビアンキ。

彼女は涙をはらはらと流しながら獄寺に訴えた。


「ああ、隼人…あなたはこんなにもこの変態に悩まされていたのね…!!気付けなくてごめんなさい!!」



悩まされてたのはシャマルだけじゃないよ。



ツナは内心で突っ込んだ。口に出してシャマルの二の舞にはなりたくなかった。