貴方の為に 祈ります
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パンッ
乾いた音が。一度響いて。
ドサ…
その人が。撃たれた方向に倒れて…終わった。
赤い液体が―――どんどん、出てきて…
「あ…」
ああ、オレ、人を……
今。この手で。この手にある凶器で。人をころ 「―――10代目!!」
彼が。獄寺くんがオレに抱きよってきて。…そんな彼の身体は、震えていて。
オレは彼に何の反応も出来なくて。空の銃を手から離すことも出来なくて。放心状態で、ずっと同じ事が頭の中に流れてきていた。
殺した。人を。殺してしまった。
あんなに彼が尊いと。重いと。そうだと言っていた命を。奪ってしまった。
オレは理解しているのか?自分のしたことの意味を。背負っていけるのか?人一人を。
考えは留まることを知らず。またすぐに別の思考の波が流れていく。
それに流されていきそうなオレをどうにか引き止めてくれてるのは。抱きしめてくれてる彼の体温。
彼はオレの名前を叫んだっきりあとは何も言ってこない。
…そうか。
いつも言ってる「オレが貴方を守ります」なんて言葉も。今は言えないか。
だってそれは。獄寺くんが守ってくれるということは、その間、生きてる間。
オレが殺人に悩むということだろうから―――
だから彼にはもう何も言えない。何を言っても自分を、オレを苦しめることにしか思考がいかないだろうから。
…なら。オレが獄寺くんを助けないと。
「…獄寺くん」
びくりと大きく震える獄寺くん。まるで何かに怯えるように。
「大丈夫だから」
ぎゅっと。抱きしめられる力が強くなる。彼はまだ安心出来てない。
「耐えて見せるから」
未だ震えてる獄寺くん。もしかしたら泣いているかも知れない。
「…命を、背負って見せるから」
オレは彼の頭を撫でながら。
「命の尊さを、忘れないから」
オレも彼を抱きしめて。
「命の重さを、忘れないから」
ぎゅっと。抱きしめて。
「獄寺くんに言われた事―――忘れないから」
獄寺くんはようやく俯いていた顔を上げてくれて。
…その顔は、とても辛そうで、苦しそうで…そして、泣きそうだった。
「一生、着いて、行きますから…」
掠れた声で、そう言ってくれた。それは彼なりの答えだった。
「うん。ありがとう…獄寺くんにはオレ、一生着いて来てほしいよ」
オレが彼らの世界に踏み込む決意をしたのも、全ては彼の為と言っても過言ではないのだから。
…けれど。彼が今日という日からずっと。自分を責め続けるであろうことは想像に難くなくて。
それは。オレにはどうしても許せないことで。
―――でも、今。オレの持ってるちっぽけな力じゃ、彼を救うなんて事は出来なくて。
彼が想い悩んでいるのは他の誰でもない、オレ自身のことなのに。オレが手を差し伸べようとすると彼は逃げて、ますます自分を責めるだろうから。
どうすればいいのか、何をするのが正しいのか。分からなくなる。
…獄寺くん。お願いだから、そんな辛そうな、苦しそうな…泣きそうな、そんな顔をしないで。
オレはもう日常に戻れなくなったけど。この世界に足を踏み入れてしまったけど。
でも耐えて見せるから。この人の命も、背負って見せるから。
でも。そんなオレの言葉も今の獄寺くんには聞こえないんだね。
だから。オレは祈ります。今まで祈った事なんてないけれど。彼の為に祈ります。
―――神様。嗚呼、かみさま。
どうか、オレの願いを叶えて下さい。
オレは、彼の苦しそうな顔は見たくありません。
オレは、彼の辛そうな顔は見たくありません。
オレは、彼の泣き顔は見たくありません。
だからお願いです。
いつか、いつの日か。オレの頑張り次第で彼がまた心から笑えるような日を。そんな夢のような日を用意して下さい。
もしも用意して下さるのなら、オレは頑張れますから。彼の為に頑張れますから。
その為に、見守ってて下さい。
オレを。オレたちを。
その命の尊さを忘れてしまわないように。
その命の重さを忘れてしまわないように。
その命を奪うという行為の意味を、忘れてしまわないように。
見守ってて下さい。
お願いします…
オレも彼の願いを、叶えますから。
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オレは彼の言葉を、忘れない。
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