遺書
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一回だけ。一度だけ。本音を言っても、言いですか?
………。
オレは…
死にたくなんて、なかった。
―――なんて言ったら、やっぱりあなたたちは驚くのでしょうか。
確かに、ああ、認めます。
確かにオレは、子供の頃は、死ぬのなんて怖くなかった。
オレはまだ命というものを、知らなかったから。
オレはまだ命というものが、分からなかったから。
おかしな話ですか?でもそうなんです。
だって、オレは、オレの価値は、使い捨てのそれと同じだと言われて育ったのですから。
おかしな話ですか?
でも、そうなんです。
だからオレは、死ぬのなんて怖くなかったです。
……怖く、なかったんですけど。
一体いつから、そうではなくなってしまったのでしょうか。
オレは使い捨ての消耗品として生まれてきたのに。生を夢見るだなんてそれは滑稽でしょうか。
オレの目には人間と言うのは大きく分けて二つに分けて見えました。
オレを消耗品として扱う人間と。
…オレを、人間として扱う人間と。
それまでそうであったのが普通だったから。オレはあの時は少し過剰でしたね。
命を助けて頂いたあなたにはこれ以上ないほどの恩威を込めて接しました。
…あいつらには、いつも喧嘩腰でしたね。本当は戸惑っていただけなんですけど。
だって、理解出来なかったんです。
消耗品を人間扱いするあいつらが。
でも、そんなオレも、変わりました。
…変われ…ました。
あなたたちは壊れたオレを見捨てる事無く。立ち直るまで面倒を見てくれましたね。
オレを生んで、育てたあいつらは望んではいないのかも知れませんけど。
でもオレは…あの頃よりもずっとずっと楽しいと、思っています。
…思えて。います。
だからみんなへお礼の言葉を。
ありがとう。
本当に…ありがとう。
ここまで歩いてこれたのは、みんなのおかげ。
ここまで進んでこれたのは、みんなのおかげ。
みんながいたから、今のオレがいて。
だから、ありがとう。
オレに世界を教えてくれて、ありがとう。
オレに大切なことを教えてくれて、ありがとう。
オレを変えてくれて…ありがとう。
…らしくないですか?
そうかも知れませんね。
でも…たまには良いじゃないですか。
どうやらこの期を逃したら…二度と言えなさそうですし。
あはは、すいません。…少しだけ、ドジ踏んじゃいました。
こうならないようにって…気を付けてはいたのですけどね。
オレはここまでのようです。
覚悟は…してました。
あの頃とは違うんですよ?
あの…獄寺の屋敷にいた頃とはまた違うんですよ?
あの頃は覚悟も何もあったものじゃなかったですから。
あれから…屋敷を出て、ストリートチルドレンになって、ボンゴレに入って…日本に飛んで。
そして平和な生活を味わって…
死が怖くなることもありました。
みんなとの日常を失うのが、怖くて怖くて仕方がなくなってしまう時だってありました。
でも…
それでもオレは、マフィアですから。
オレの夢はマフィアになることでしたから。
だったら、やっぱり覚悟は必要ですよね。
今回、たまたまその時が来てしまっただけです。
…などと言ったら、あなたはお怒りになるのでしょうか。
まぁ、このことの小言はあなたがこちら側に来たときにでも致しましょう。
………なるべく、遠い日に来て下さいね。
では、最後にもう一度だけ。
昔のオレは、死なんて怖くありませんでした。
でも、今は怖くて怖くてたまりません。
昔のオレは、日常がモノクロの世界に見えました。
でも、今はとても色鮮やかな世界に見えるんです。
それは…あなた方がオレを変えてくれたから。
オレを変えてくれて、ありがとうございした。
本当に…ありがとうございました。
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さようなら。オレは人間として、ここに息絶えます。
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