恐怖緩和剤
1ページ/全1ページ


「リボーンさん、名案があります。…もう止めましょう?」

「お前な…まだ始まってすらねーだろ。もう少し根性見せろ根性」

「いえもうオレがここまで来れたこと自体が既に努力賞モノですから」

「もっと頑張りましょう、て奴だな。もっと頑張れ」

「ううう…」


言って、獄寺はリボーンの小さな身体を抱きしめる。ぎゅっと。


「まさか…リボーンさんがこんなこと受け入れるなんて…」

「オレがここまで身体張ってんだ。お前も気張れ」

「は、はい…っうう…でも…ううう…」


お前。そろそろビアンキを克服したらどうだ?


と言われたのはつい先日のことである。そのときの獄寺の返答は即答だった。無理です。

幼少時代のトラウマは根強く、未だに治る兆しはない。むしろ治そうとも思わない。


「とは言ってもお前、不便だろ」


確かに不便ではある。そこは獄寺も認める。ビアンキを目撃するだけで何時間無駄にしてしまうと言うのか!

けれどその辺も含めて獄寺は既に悟りの境地を開きつつある。それはそれ、これはこれだ。

だけれどリボーンは納得してないみたいだった。


「そうは言ってもなぁ…」

「えーと…じゃああれです!!」

「?」


引こうとはしないリボーンに、獄寺はある条件を叩き付けた。

それは…


「リボーンさんがずっと一緒にいてくれたら、少しは頑張ってみようかと思います」

「ずっと?」

「ずっと、です」


聞くはずがない。獄寺はそう確信していた。

あのリボーンが、まさか自分と共にいるなど選択しないと踏んで。

だけど、


「なんだそんなことでいいのか。分かった。じゃあお前と一緒にいよう」


リボーンの返答はまさかの了承だった。

獄寺は焦る。


「え…ちょ、待って下さいリボーンさん!」

「なんだ?」

「えっと…ずっと一緒にいるって言っても、あれです。ずっとオレに抱っこされるって意味で…しかもオレ、不意に力いっぱい抱きしめますよ!?」


獄寺としては、希望一杯夢一杯詰め込んだ要求だった。叶わぬ夢の、要求だった。

絶対に受け入れない。獄寺はそう思った。

しかし、


「分かった分かった。オレはお前に抱っこされる。不意に力いっぱい抱きしめられる。これでいいな?」


あまりにもあっさりとリボーンは承諾するものだから、獄寺は言葉を失う。

え、あの…とか言ってる間にリボーンはビアンキと買い物する約束を取り付けてしまった。無論、獄寺と共にだ。


そうして…時は今日。今へと戻る。


「リボーンさん…オレ、やっぱり怖いです」

「落ち着け。ビアンキは咬みついたりしてこない。料理を出しさえしなければまぁ比較的普通の女だ」

「普通の規格がいまいちよく分かりませんけど、ああ怖い怖い…リボーンさんどうしましょう身体の震えが止まりません」

「まぁお前の震えは身体越しに伝わってくるが…とにかく落ち着いて頑張れ。オレのために」

「リボーンさんのため…?」

「ああ、お前この間オレと出掛ける約束してたけど、出かける前ビアンキが来てお前気絶して結局潰れただろ」

「え……あ!」


まるで今気付いた…というか本当に今そのことに気付いた獄寺が顔を青褪めさせる。


「す、すいません、オレ!」

「ああ、だから頑張って治せ。で、治ったらまた出掛けるぞ」

「…リボーンさん…」

「ん?」

「……オレ、頑張ります!」

「ああ、頑張れ」


真相を知り、獄寺の瞳にやる気の炎が宿る。

拳をぎゅっと握り、気合は十分だ。

だけど、


「チャオ、リボーン、隼人。遅れてごめんね?」


唐突に現れたビアンキに思わず身体を震わせて獄寺はあっさりと意識を失った。ため息を吐くリボーン。


「あら。隼人どうしたの?」

「さーな」


問いかけるビアンキに、投げやりに答えるリボーン。

この分だと、暫くは買い物は無理だな。


少しそれが残念なリボーンだった。


++++++++++

暫くお預けか。