彼在らず
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彼が死んだ。

オレの目の前で死んだ。

彼が死んだ。


―――オレの腕の中で、死んだ。


オレを狙う刺客から庇って。

刺客の攻撃が当たる寸前に身を挺して。

彼の身体に無骨な凶器が穴を開けて。


彼に抱きしめられていたから、その時彼が痙攣したのが分かって。


彼の呻き声が鼓膜を刺激して。

彼の力がどんどん抜けていって。

彼の熱を持っていた身体は、冷たくなっていって。

彼の身が重くなっていって。


オレは怖くなって。

彼を失うのが怖くなって。


恐怖のあまりに言葉を発することも出来なくて。

身体はがたがたと震えて。

そんな情けない奴の命を助けた彼は、苦しそうな表情をしながらもオレを心配していて。


彼は死を目前にしながら。

彼は苦痛に苛まれながら。


それでも彼は、こんなにも救う価値のないオレを。

こんなにも助ける価値のないオレを怨むこともせずに。

ただ一言。


大丈夫ですか…?


とだけ言って。

そうして、死んだ。


彼が死んだ。

オレの目の前で死んだ。

彼が死んだ。


―――オレの腕の中で、死んだ。


ぽろぽろと涙が零れる溢れる止まらない。

かたかたと身体が震える怯える止まれない。


彼はいない。

彼がいない。

どこにもいない。


涙が止まらない。

溢れて溢れて。それでもなお。止まらない。

目が痛い。頭が痛い。心が痛い。


―――涙が、止まらない。


目を瞑って出てくるのは、彼の笑顔。

いつだって絶やさなかった彼の笑顔。


また溢れる。涙が溢れる。

身体中の水分が消えてしまいそう。


苦しい。怖い。誰か。助けて。


目を瞑って出てくるのは、彼の言葉。

…最後の彼の。言葉。


大丈夫ですか…?


大丈夫じゃない、大丈夫じゃないよ獄寺くん。


だからお願いオレを助けて。

だからお願い。早く助けて。


死者に鞭打つような真似をして。オレは罪深いのだろうか。

それでも、いい。

彼が来てくれるのならマフィアにでも何でもなる。

彼が傍にいてくれるのなら地獄にもどこへでも行こう。


だからお願い。お願いだから。

オレの隣に、オレのすぐ傍にいて下さい。


―――獄寺くん。


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涙も身体の震えも。

暫く止みそうになかった。