彼がヴァリアーにいる理由
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「なんだ…朝か」
「………」
「なんだカス鮫…報告なら早くしろ」
「……………」
「…?」
黙っている…というか固まっているスクアーロにザンザスも不信感を覚えた。
スクアーロといえば、なんとか腕を動かして獄寺を指差すことしか出来なかった。
だがそれだけで十分だった。ザンザスがその指先の方角を見る。
すなわち。自身の胸の中、自分が抱きしめている獄寺を。
「………!?」
ザンザスも固まった。混乱した。どういう経緯でこうなったのかまったく分からなかった。ていうか肩肌が。
「カス鮫…剣を寄越せ」
「あ"ぁ!?な、何に使うんだ?」
「切腹する。介錯は任せた」
「う"ぉお"おおおおおい!!!待て待て待て!!分かってるこれは事故だ!何か事情があったんだこれは!!!」
「事故だろうと事情があろうとオレは…オレは自分の娘に…娘になんてことを…オレはオレが許せん!!」
「だから落ち着けよ!!今の自分の台詞と正面から向き合って考えろやゴラ!!」
ヴァリアーボスとNo.2が言い争う中、当の獄寺はといえば起きる様子もなく未だ夢の中だった。
一方。
「隊長遅いわねー…ちょっと、あんたたちちゃんとその子捕まえてんでしょうね?逃がしてない?」
「当然だろ!さっきからナイフ刺してるからいるって!反応はないけど」
「何してんのよ!殺すなって言われてるでしょ!!一体何のために生け捕りしたっていうのよ!!ああもう、大丈夫?」
ルッスーリアがベルをどかし捕え網を剥ぎ取るが…中には誰もおらず。
「あら!」
「げ!」
「む…」
「…逃げられたかしら…やっば隊長とボスになんて報告しようかしら」
「何してんだよレヴィ!」
「オレのせいか!?お前が一番近くにおったくせになぜオレに当たる!!」
「もー喧嘩しないの!…まだ遠くに行ってないかも知れないわ。探すわよ!!」
なんてことがありながらも…更に一方。
その逃げた当人。新たなヴァリアーメンバー(候補)である期待の新人はヴァリアーアジトを普通に歩いていた。
急に襲われ、拉致られ、殺し合いの駒にされそうになった身としてはこのまま逃げるより何か仕返しの一つでもしてやりたいと思ったのだ。
なにか高価そうなものでもあれば盗んだり、あるいは壊したりしようかと辺りをきょろきょろ見渡していると…
どんっ
急に開かれた扉から現れた影とぶつかった。
「オウ!もー誰ですかー余所見して!!」
敵陣の真っ只中だというのになかなかに肝の据わった態度である。
しかしそのぶつかった相手のその姿を見て、その気だるげな目が見開かれる。
そう、彼がぶつかった相手こそようやく起きてひとまずボスとスクアーロに出て行くよう言われたほろ酔い気分の獄寺隼人氏(やや肌蹴た浴衣着用)である。
「いてて…えーっと誰だ…見かけねえ顔だな…」
「み、ミーはフランと言いマース!!」
少し緊張した面持ちで自己紹介するフラン。獄寺はフランの名を反復する。
「んん…?誰だ…?そんな名前の奴いたっけ…?新人か?」
「ユーは…」
獄寺について聞こうとするフラン。しかし!その時彼の脳内に電撃が走った!!
この美貌…そしてこの乱れた服装。この方は拉致られ攫われこの組織の慰み者として監禁されてる方に違いない!!
「可哀想に…!!!」
「ん?」
急に同情され、不審に思う獄寺。しかし寝呆け頭とほろ酔い気分により上手く頭が働かない。
フランは滂沱の涙を流しながら獄寺の手を取り上下に振り回す。
「場所から見てここはボスか幹部クラスの部屋の辺りデスか!?きっとそんな奴らに毎夜毎夜毎夜…ううう!もう大丈夫デス!!ミーがユーを助けマス!!」
「ん?ああ、どうも…………………ん?」
ようやくここで、獄寺は相手がなにか思い違いをしていることに気付いた。
「ちょっと待て。何の話だ?」
「ユーがここの奴らに酷い目にあわされている話デス!!」
「待て待て。よく分からんが、そりゃ誤解だ」
「え?」
フランは獄寺の姿をまじまじと見る。
ヴァリアーの黒い制服と違い、白い浴衣。
少なくともヴァリアーの一員であるようには見えなかった。れっきとしたヴァリアーのメンバーではあるのだが。
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