彼がヴァリアーにいる理由
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「ワオ!何デスかあの獣は!!」

「よーベクター。相変わらずふさふさだなあ。触らせてくれんの?」


獄寺はいつでもマイペースだった。

ちなみにベクターはザンザスを除けば獄寺にのみ懐いている。

獄寺を離せといわんばかりに咆哮するベクター。空気が振るえ、窓硝子にひびが入る。


「うう…獣は話が通じないから苦手デース」

「はっはっは。ここの連中が獣程度にでも誰かの話を聞いてくれると思ってんのかよ」


獄寺は朗らかに笑った。

獄寺は獄寺なりに勉強しているようだ。


『ベクター。そのまま』


と、幼き声が。

フランと獄寺がその声を認識したと同時、獄寺の姿が薄くなる。淡くなる。…消える。

気付けば獄寺はベクターの背に乗っていた。


「おー、いつかのジャパニーズアニメみてーな図だな。なんていったっけ…ええと……確かけものの姫」


惜しい。


「…まったく、疲れて帰ってきたと思ったら何この騒ぎ」

「よおマーモン。お帰り」

「ただいま。…キミ、どこのファミリーのもので何が目的かは知らないけど…よりにもよってこの子を狙うなんて悲しすぎるほど愚かだ。生きては帰れないよ」


踏ん反り返りながらマーモンは獄寺の肩に乗る。

白い獣の上に白い浴衣を纏い肩にはミニマムな黒い生き物。カオスな光景だった。


「この組織には魔法少女がいるのデスか!!」

「ばっかおめーオレはもう少女なんて年じゃねーよ」

「獄寺。突っ込み所間違ってる」

「魔法少女じゃないならサーカス団デスかね」

「ならお前は餌かな。被り物的に」

「ああ、餌。餌いいね。ベクター本当に頭からあいつ齧ればいいのに……………?」


マーモンの言葉が疑問に変わる。獄寺の姿が薄くなる。淡くなる。…消える。

まるで先ほどの獄寺を逆再生しているようだった。獄寺はフランの手元に戻る。


「お帰りなさい」

「ん?おお」

「獄寺!!く…キミも幻術使いだったのか!!」


慌てるマーモン。獄寺の手を引くフラン。その途中、時計の鐘が鳴った。


「ん?あ、わり。着物の着付けの習い事の時間だ」

「そんなもんサボればいーデス!!」

「いやそういうわけにもいかねーから」


立ち止まり、部屋へ戻ろうとする獄寺をフランが引き止める。


「いいじゃないですか習い事なんて!今日はミーとユーが出会った記念日なんデスよ!?」

「それとこれとは話が別だ」


なおもあれやこれや言って獄寺を離そうとしないフランに獄寺が切れた。


「うっせーな駄目だっつってんだろうがいい加減にしろ!!


獄寺は腰を深く落とし拳を放った。固く握られた拳がフランの腹に食い込む。


「ぐふ……っ」

「出たー!獄寺の得意技正拳突き!!」


追いついたマーモンが実況した。

その声に獄寺ははっと正気に返り顔を青褪めさせる。


「やべ…やっちまった」


実は獄寺。浴衣等の服装時は(見た目の問題から)合気道、それも(服が乱れるから)動きの少ないものでしか攻撃をしてはならぬとザンザスにきつく言われていた。

正拳突きなんてもっての外である。もう足とか太ももとかとんでもないことになってしまった。


「ま…マーモン!頼む!ボスには黙っててくれ!!」

「分かったよ。その代わりこないだ僕が贈った服、ちゃんと着るんだよ」


ここに影の取り引きが行われた。

ともあれ、ヴァリアーを騒がせたフランは更にヴァリアーを騒がせた獄寺の手により収まった。

そのフランだがぶん殴られた獄寺に惚れてしまったらしく懐きくっつき離れず慕いそのままヴァリアーに居着いた。

ベルとかとしょっちゅう睨み合い、殺し合ってるフランだが上手くやっているようで。

そして当の獄寺といえば。


「獄寺せんぱーい!!一緒に任務行きましょー!!」

「お…おう!先輩…先輩かあ……いい響きだなあ…」


先輩と呼び慕われ、満更でもなさそうだった。


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そんなわけで、今日もヴァリアーは平和でした。