彼の行く先
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   あの人に追いつきたいんです。


そう、あいつは無茶する度に言っていた。

いくら周りが止めようと、全く聞く耳を持たず。

曖昧に笑い、誤魔化し、一時は聞き入れたふりもするが、少しすればすぐに元通りになった。

時間を消費する代わりに生傷を背負い、血を流す。


何が一体楽しいのやら。


あの人とは、一体誰なのやら。

オレには皆目見当も付かないが、あの人とやらにはとっととあいつを止めてほしいもんだ。


目障りなんだ。


不合理的なトレーニングも、無茶苦茶なやり方も、何もかも。

指摘しようとしてもあいつはオレを避け、逃げ、そしてそのやり方は増々酷くなっていく。


何がそんなにも楽しいのやら。

あの人とは、一体誰なのやら。


あいつはその身を削り、疲労を手にし、沈むように眠り、そしてまた起きては身を削る。

誰に何を言われても聞く耳持たず、その身に自ら鞭を打つような苦痛を与え続けている。

その行為はいつまで経っても終わりを見せず、その過激さは衰えを知らず、ただただ血を吐くような鍛錬を積んでいる。



全ては、あの人とやらの為に。



何があいつをそうさせているのか。

あの人とは、一体誰なのやら。


あいつの言うあの人とやらは、少なくともオレではないだろう。

あいつの追いつきたいと願うあの人とやらは、まずオレではないだろう。


何故なら、あいつはもうとっくに、とっくの昔に―――オレに追いついているのだから。


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だからいい加減、戻ってこい。