彼の隣に立つ方法
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「リボーンさん。今日は天気がいいからお出掛けしましょう」

「そうか?…そうだな」

「はい」


オレは足がなくなって更に小さくなったリボーンさんを抱きかかえて、車椅子へと移動させる。

リボーンさんが本当に歩けなくなった今、その補助は変わらずオレの役目だ。

だけど、変わったこともある。

リボーンさんの表情が、とても柔らかくなった。険の雰囲気が解けて笑ってくれるようになった。


だからきっと、オレがしたことには意味がある。


「…獄寺?どうした獄寺」

「え!?な、なんですか!?」

「さっきからボーっとして。何か悩み事か?」

「な、なんでもないです!」

「……おかしな奴だな」


呆れた風に言いながら、けれど笑ってくれてるリボーンさん。

その微笑みもこの言葉も、本当はオレに向けられてることではないと、知っているけど。

オレは獄寺隼人じゃない。だけどリボーンさんにとってはオレが獄寺隼人。


この世界に必要なのは、それだけで充分。


と、突風が吹いてリボーンさんの帽子を遠くまで飛ばさせる。

思わず腕を伸ばしたけど、オレの手が間に合う前に……まるでオレから逃げるように帽子は遠くまで飛んで。

帽子は風に乗ってぐんぐんと上がっていって。やがてボンゴレのある施設の部屋の窓にぶつかって落ちた。


その部屋は覚えてる。いつもなら開いてた部屋の窓。

その部屋は覚えてる。いつもリボーンさんが一人で向かっていたところ。


そういえば、リボーンさんはオレを獄寺隼人だと認識してからあそこへ向かわなくなったな…

…じゃなくて。今はそんなことよりも帽子だ。


「…すいませんリボーンさん。すぐに取りに……」

「いいや、構わないさ。それよりオレはお前とデートがしたい」

「!!も、もうリボーンさん!ですからいきなり、そんな……!」

「本当にお前はストレートな物言いに弱いな。面白い」

「オレで遊ばないで下さいリボーンさんー!!!」


クックと笑うリボーンさんに口を尖らせる"獄寺隼人"

これがリボーンさんが望む日常。そしてきっと"獄寺隼人"が望む日常。


この人がいなくなるその日まで、オレはこの日常を演じよう。


オレはリボーンさんで手一杯。だから帽子が入ることが叶わなかったその部屋には、誰からも忘れられた目覚めぬ"誰か"がいて。

その人が遠い向こうから聞こえてくる愛しい人と"誰か"の笑い声に、意識が戻らないまま音もなく静かに涙を流したなんて。


オレたちが知る由などある訳がない。


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世界は回る。彼に報いを与えるように。