彼の隣に立つ方法
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オレはオレの罪を知る。あの日、犯した罪の重さを知る。

リボーンさんを騙した罪。リボーンさんの世界を変えた罪。


獄寺隼人の、居場所を奪った罪。


オレは偽者でよかったはずだ。いいや、偽者でなくては駄目だったはずだ。

何が獄寺隼人になりきるだ。違うだろう。オレの役目はそんなのではない。

オレの役目は、あくまで獄寺隼人のなりそこないで。


周りの連中に"ああ、やっぱり偽者は駄目だ。本物をどうにかして起こそう"って思わせることじゃないか…!


本物の位置に無理やりオレが居座って何がどうなる。実際何がどうなった。本物が絶望し死を選んだだけじゃないか!

本物を殺してどうする。オレが作られたぐらいなんだ。代わりを作られるほどあいつは周りから愛されていたに違いない。リボーンさんにだって!


そいつを殺した。オレが殺した。オレの存在が、オレの罪があいつを殺してしまった。


オレは獄寺隼人を殺すために作られたわけではないのに。オレの役割は獄寺隼人が目覚めるまでの代理品。ついでにリボーンさんの補佐。それだけだったのに。

オレは苦しむリボーンさんを救いたかった。助けたかった。今考えるとそれはなんて傲慢で自分勝手なことだったのだろう。


そんなこと誰が頼んだ。いつ願った。結局は自分の為に動いただけじゃないか。仮初めでもリボーンさんと親密になりたかっただけじゃないか!

そうとも。本当にリボーンさんを救いたかったのなら。助けたかったのなら。もっと別の方法があったじゃないか。

たとえば、そうとも。オレを眠っている獄寺隼人とまったく同じ状態にして、そこから目覚めさせる実験をする、とか。

電気ショックなり開発したての薬なり、なんでもいい。たとえそれが人道に反していたとしても問題はない。オレは人間じゃないのだから。そして失敗してもオレは作り物なんだから何度だって作り直せば、やり直せる。


そうして実験を繰り返して。何体目か何十体目か何百体目かのオレが目覚めて。それを獄寺隼人にすればよかったんだ。そうしたら獄寺隼人は無事にリボーンさんと会えたんだ。

それが一番の幸せな結末だったはずだ。リボーンさんが喜び、獄寺隼人が喜び、周りのみんなだって喜ぶ。満足する。オレは廃棄される。それが…

それが…ベストだったはずだ。そうするべきだったんだ。オレは選択を、道を踏み外してしまった。


周りがオレを「獄寺隼人」と呼ぶ。それがオレには苦痛でたまらない。

違う。オレは違う。オレは作り物で、偽者で。けれど本物はもういなくて。

いっそ作られてから今日までの記憶を削除してしまったら楽になれるのだろうけど、それだけは絶対に出来ないと叫んでいる自分がいる。

オレの中には獄寺隼人の記憶、仕草、癖。思考パターンに銃の腕。火薬の知識に10代目への忠誠心から…リボーンさんへの愛情まで全てが刻まれている。


そして。それから。


オレが生まれてから、あの日、あの時まで。リボーンさんと過ごしてきた思い出が刻まれている。

本物の獄寺隼人すら持っていない、オレしか持っていない、リボーンさんとの思い出。


…消したく、ない。

これは、これだけはオレのものだ。


罪の身で、なんておこがましい。自分でもそう思う。けれど消せない。消したくない。これがなかったらオレは死んでしまう。だからきっと、この思い出こそがオレなんだと、そう思った。



オレには獄寺隼人が使ってた部屋が宛がわれた。そこは初めて入る場所のくせに、どこに何があるのか手に取るように分かった。


…もうじき夜が明ける。また朝が訪れる。苦痛が始まる。

オレは頭を振る。息を吐く。己が役目を思い出せ。今ここにいるオレの、周りに望まれているその役割を思い出せ。自分の名前を思い出せ。



…オレの名前は獄寺隼人。ボンゴレファミリーで作られた。

オレの隣には獄寺隼人を望む人たちがいて。

けれど本物の獄寺隼人はもういなくて。

オレの役目は、死んだ獄寺隼人の代わりに獄寺隼人を演じること。獄寺隼人に成り切ること。


それがオレの日常。


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オレは生きる。オレは生きている。罪を背負って。苦痛を浴びながら。