片想い
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10代目や他10年来のリボーンさんの教え子たちが、必死にリボーンさんにオレのことを説明しています。

だけどリボーンさんは首を傾げるだけでした。それもそのはずで、リボーンさんはオレ以外のことなら全てを覚えているのです。

いえ、リボーンさんからしてみればきっと自分が記憶喪失だという自覚はないのでしょう。ただ、怪我をしたから大事を取っているだけだと。


リボーンさんの中からオレだけが欠落してしまった。リボーンさんの中のオレは消えてしまいました。


リボーンさんがまるで他人行儀に、いえ、リボーンさんにしてみれば実際他人なのでしょうが、とにかくオレに接してきます。

気遣いを含ませた言葉と、優しさを混ぜたような笑みを向けられます。初めての経験です。


…もしかして。


ふと、目の前のリボーンさんを見ながらオレは思います。

もしかして、オレはリボーンさんに嫌われていたのでしょうか。

オレと10年過ごしてきた以前のリボーンさんと、オレのことを忘れてしまった今のリボーンさんとの態度の差はそう思わせるには充分です。

…まぁ、確かに好かれているとは、決して思ってませんでしたけど。


だけれどまさか、嫌われていたのでしょうか。


そのことに思いの他ショックを受けたのは、オレはリボーンさんを尊敬していたからです。

尊敬していた人に実はどうでもよく思われていたのではなく、嫌われていたのだと知ったからです。


そうに決まってます。


だけど、オレはそう悲観することもないのです。

リボーンさんの中の、馬鹿で弱くてよく吠える駄目な教え子の獄寺隼人はもういないのですから。

今リボーンさんの目の前にいるのは、ボンゴレに入ったばかりの、知り合ったばかりの獄寺隼人なのですから。


オレはこれからリボーンさんと知り合っていけばいいのです。

今からリボーンさんと新しい関係を築いていけばいいのです。

きっと以前よりも良い関係が築けます。

それはとてもいいことです。

だから、オレはそう悲観することもないのです。


なのに―――



どうしてオレは、ひとりになると泣くのでしょうか。

声を殺して、泣くのでしょうか。


そのときオレの脳裏にあの小馬鹿にしたような笑みを浮かべるリボーンさんの顔が浮かぶのは何故でしょうか。


胸が痛いのは何故でしょうか。

とても悲しいのは何故でしょうか。


昔のリボーンさんがとても恋しいのは―――――何故でしょうか。


それほどリボーンさんに関心があったわけでもないくせに。

むしろ、嫌いです。リボーンさんなんか。

あの異常なくらいの実力に一目を置いてるだけで、それさえなければ大っ嫌いです。

だって生意気だし、小さいくせに強いし、よくオレを馬鹿にするし、年上みたいな雰囲気持ってるし、10代目や山本の相手ばかりで全然オレに構ってくれないし。


嫌いです。


リボーンさんなんか、大っ嫌いです。

リボーンさんだって、オレのこと嫌いです。


オレたちの関係は、それだけです。

とても希薄な関係だったから、リボーンさんはオレを忘れたんです。


なんでもないです。

大したことないです。


なのに涙が止まりません。


好きじゃないのに。

嫌われてるのに。


好かれてないのに。

嫌いなのに。


なのに胸が痛いです。


頭の中を思考がぐるぐるループします。

そうしてオレは暗い部屋の中でひとり泣いて、明るい部屋の外で笑ってました。そんな毎日でした。