強い想いで決断を
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静かな静かな港町。辺り一面に滴っているのは夥しくも真新しい血潮の海。

所々に転がっている死体の数々。焦げた民家。チリリと感じる―――――殺気。

迷わず撃つ。まだいる。オレを、オレたちを殺したいと思っている馬鹿な奴らがごろごろと。

…彼が、獄寺くんが心配だ。この人数相手だと、きっと無傷では済んでない。

彼はどこか自分というものを軽薄している節がある。目的を果たすためなら彼は自分の身も命すらも惜しくはないのだ。

走りながら、命を奪いながら、オレたちは走る。彼を見つけるために―――


やがて、黒い服が見えた。

撃った。奴らがオレたちじゃない誰かを狙っていたから。

オレたちに気付いた奴らは標的を変えた。そりゃあ、ボンゴレ10代目なんて大物、滅多にお目に掛かれるものではない。

ましてや、いつ命が奪えるか奪われるか分からないような、こんな状況で―――


「綱吉。何でそんなに楽しそうに笑ってるのかな…正直、不気味で仕方ないんだけど」

「―――ああごめん。いやね、獄寺くんとようやく逢えると思ったらつい……」

「つい、じゃないよ。でも、彼きっとそれなりに怪我してるよ?笑ってる暇なんてないんじゃない?」

「…分かってる。雲雀、獄寺くんを頼んだ。ここはオレが片付ける」


オレの台詞を聞いて、雲雀は少なからず驚いた。


「…本気?そりゃあ、狙われてるのはキミだろうから、僕が行ったほうが敵の注意も反れるだろうけどさ」


そこまで分かっているのならと、オレは雲雀を目で促がした。雲雀はため息を吐きながら走っていく。

奴らはオレがボンゴレ10代目だと知っているのだろう。駆ける雲雀に目もくれず、オレ一人に狙いを定めてきた。

……オレに楯突く愚かな野郎共。このオレの命を狙うということ、そしてその罪を、身をもって味わうがいい。

今のオレは誰にだって負ける気がしない。それこそ、あのリボーンにだって。

―――その理由が、やはりボンゴレに歯向かったという事ではなく獄寺くんを傷付けただろうからというのは……やっぱり、ボス失格だろうか。

そんなことを思いながら、そこに有る命を刈り取っていった。


…目蓋越しに届く光が眩しい。片腕を使って影を作ろうとしても、肝心のそれはまったく動いてくれなかった。

出血は止まっているようだが身体中が痛い。動くための神経は麻痺しているのに痛みを感じる神経が敏感になっているのはこれいかに。理不尽だ。

がたん、と地面が大きく揺れた。身体が軋む。痛い。

どうやらオレは、車か何かで運ばれているようだ。不味いな。捕まってしまったのだろうか。

オレは必死になってたこの吸盤みたいに引っ付いてしまった目蓋を無理矢理こじ開ける。水分が足りないのだろうか、酷く目が乾いてた。

―――と、そこには。


「ちょっと雲雀、揺らさないでよ。獄寺くんの傷が開く」


運転席の方を向いて、なにやら文句を言っている10代目と。


「うるさいな。こう見えても荒れてない道を選んでるんだから少しぐらい大目に見てよ」


不機嫌そうに答える雲雀がいて。

…雲雀の奴。結局10代目を連れて帰れてねぇじゃねぇか。何が分かっただ。

―――と、また大きく地面が揺れて。また傷が痛んで。思わず目を閉じた。


「ああ、獄寺くんが痛そうに…雲雀、いくら自分がサドだからって時と場合を考えてよ」

「…あのね。それは誤解―――って訳じゃないけどさ。とりあえず、今は彼を痛めつけようと思っている訳じゃないから」

「どうだか。雲雀は自分が楽しければそれでいいって感じだから。…でも、獄寺くんは渡さないよ」

「はいはい。渡さなくてくれて結構。……それを奪うのが、楽しいんだから」


……なにやら物騒な会話が営まれている気がする。どうか気のせいであってくれ。…あって下さい。


「…まったく、大きな傷を作ってくれて。帰ったらどうしてくれようか」


頬を触られる。くすぐったくて、少し痛い。


「自分こそサドじゃないか。でも、彼の傷が治るまであんまりいじめちゃ駄目だよ。可哀想じゃない」

「分かってるって。…けど、少しぐらいなら平気だよね、獄寺くん。約束を破ったんだから、自業自得だよね?」


……頭を撫でる感触が心地良くも背筋が凍るような思いになるのは一体どういったことでしょうか10代目。

いや冗談ですよね。でも目覚めたら開口一番に貴方に謝ろうと思います。ごめんなさい。痛いのやです。


…帰って起きたらどんな目に遭うのだろうと心配しながら、けれどまた10代目の為に仕えられるのならそれもまたよしと思い。

オレはまた眠りに付くまで、ずっとこの心地良い10代目の手の平を享受していた。


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ああ、生きてる。あたたかい。