厳しい現実
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獄寺くんは一体何を言ってるのだろう。
別に誰も…寝てないよね?
クリスマス、寝ずに過ごしましょう…とも違うだろうし。
…?
変なもやもやを抱えたまま、数日を過ごす。
小さく呟かれたはずの、獄寺くんの言葉が頭にこびりついて離れない。
けれど何も分からない。そもそも「起きて」だなんてオレが彼にずっと思い続けてきたことだ。なのになんで逆にオレが思われているのか。
オレ別に寝てないしなぁ。
だけどあれから何度も獄寺くんに問いただしても曖昧な笑みを浮かべて誤魔化されるだけだ。
まるであの時だけ、夢を見ていた気分。
…って。
そういえば何だかずっと夢を見てない気がする。
最後に夢を見たのは………いつだっただろうか。
……?
どうして…思い出せないんだろう。
すっきりしない何かは晴れないまま、時間だけが過ぎてクリスマスの当日が訪れた。
何の問題もなく。今度こそ本当に…起きている獄寺くんと二人っきりのクリスマス。
ただ、まだ動き回ってはいけない。ということで獄寺くんはベッドの中で。オレはその横の椅子に座って。
「Buon Natale.獄寺くん」
「はい。Buon Natale、です10代目」
イタリア語でクリスマスを言って、獄寺くんとパネットーネを食べる。
「美味しい?獄寺くん」
「ええ。…とても美味しいです。一体どこから買って来られたんですか?」
「ふふふ…獄寺くんが喜ぶようにって特別に作ってもらったのさ!」
「特注ですか!?」
驚いた顔の獄寺くんが可愛い。
「くっくっく…どっきり成功だね!」
「子供ですか、あなたは…」
呆れたような表情。けれど最後には微笑んでくれる獄寺くんが愛おしい。
…だけど、どこか獄寺くんの顔に…陰りが見える。
「獄寺くん…?調子でも悪いの?」
「…そういうわけでは、ないですよ」
そう言われても、気になる。
「獄寺くん?どうしたの?」
困った顔をする獄寺くん。胸の内を言うべきか言わざるべきかを迷っているようだ。
「…10代目。例え話を一つしても、良いですか?」
「うん?何?」
「例えば…例えばですよ?」
「うん」
「例えば…去年のクリスマス、オレが目覚めなかったとします。…そもそも、その前のクリスマスもオレは目を覚まさなかったと仮定します」
「………うん」
「それでもあなたは、オレの直ぐ隣にいてくれましたか?」
「当然」
即答だった。
獄寺くんは少し面食らったような顔をして、くすくす笑う。
「それで?それが何?」
「…いえ…そうですか。そう言ってくれますか」
そう言いつつ、笑っているのも獄寺くんだ。屈託のない顔で笑っている。
「でも…なら大丈夫です。じゃあ言います。では言います。オレの願い、オレの望み。ですからあなたはそれを叶えて下さいね?」
少し意地悪そうに言いながら、獄寺くんはそう言って。
「10代目」
オレに願いを告げる。
「起きて下さい」
…しかしそう言われても、はて困った。
だからオレ起きてるって。
寝惚けているのか…はたまた―――後遺症とかじゃないよね。
一応シャマルに診てもらったほうが…
「逃げないで下さい」
気がつけば、獄寺くんに腕を捕まれていた。
…思ったよりも、ずっと強い力で。
「ご…」
「…駄目です。オレもう決めちゃいましたから」
なにを。なんて言う間もなく引き寄せられる。
…わーお獄寺くんとベッドの中で二人っきりなんて凄い状況。オレが上なら言うことなしだったんだけどな。
「10代目…如何わしいこと想像してません?」
してました。ごめん。
「もう…」
獄寺くんは困ったかのように笑うと…距離を縮めてきて。
キスされる―――と思ったのに、おでこをくっつけられただけだった。まるで子供の熱を測るかのように。
けれどその途端、オレの頭に流れ込んでくる映像。
…え?
唖然とした表情で獄寺くんを見れば…変わらず笑ったままの、獄寺くん。
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