厳しい現実
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「…起きる気になりました?」

「いやだって…え…?」


状況が掴めないままに、獄寺くんは一度また距離を置いて。


「まぁもっとも…起きる気がなくても。起きて頂くんですけど」


さらりとそう言って。


「すいません10代目。…ちょっと。痛いかも知れません」


なんて言って。獄寺くんは思いっきり振り被って―――

オレのおでこに激痛が。



―――目の前に蘇るは、あの日のこと。

二人で賑わう街を歩いてた。

それはクリスマスの直前のこと。


一発の銃声が響いた。


平和な街中にはあまりにも不釣合いな…あまりにも無粋な音。

悲鳴と混乱。怒号と動揺。鮮やかな赤とそして―――青ざめた彼の顔。



ああ…そうか。思い出した。



彼は狙われていたけど。撃たれそうになっていたけど…結局弾丸は彼には当たらなかったんだった。

そうだった。

オレは彼が無事なことを確認すると、そのまま深い深い…多分もう目は覚めないんだろうなってぐらい深い。

眠りに着いたんだった。



「―――……」


目を開けると、見慣れた天井が飛び込んできた。

…あー…

そういうことだったのか…

本当…馬鹿だなぁオレは…

全身がぎしぎしいってる中、無理に半身を起こして背も垂れる。

ベッドの脇に目をやると………嗚呼、本当。困ったものだ。どうしよう。

彼がいつものオレの指定席に座っていた。…そしてすやすやと眠っていた。

時計の針が進む、進む…直に日付が変わる時間になる…というところで、身動ぎする彼の身体。

物凄くぼんやりした顔で窓を見ている。そして呟かれる…声。


「…オレ、寝すぎだろう…」


耳に入る彼の声に高鳴る鼓動。あ。ヤバイ。すっごい嬉しい。

やっぱり現実には敵わないなぁ…

彼は俯いて、どこかで聞いた覚えがあるような…何だか懐かしい台詞を言ってくる。


「10代目と二人っきりでいられる数少ない時間なのに…10代目、すいません」

「―――んーん。気にしないで。まだ寝てても良いぐらいだし」


びくりと震える身体に、思わず笑みがこぼれる。


「おはよう獄寺くん。今西暦何年?何月何日?もしかしてクリスマス?ナターレ?だとすると嬉しいんだけど…―――」

「10代目!!」

「おぶ!…んー、獄寺くんからの熱烈なハグだよ。現実さいこー。そして獄寺くん、泣かない泣かない。夢の中でヘッドアタックかましてオレを叩き起こした獄寺くんはどこに行ったのか」

「じゅ、だ…良かった…良かった、です、10代目…!」

「聞いてないね。余裕ないね。でもそれでも獄寺くんあれだ。至急医者呼んでくれないかな。多分早めに診てもらわないとオレまた直ぐ寝るような…そんな予感がね。するんだよ」


医者と言う言葉に反応してか、獄寺くんははっと正気に返ったような顔をして…「シャマルを呼んできますっ!」と急いで慌てて部屋を去って行った。

…シャマル、オレ診てくれるかなぁ。あの人男は診ないはずなんだけどなぁ。

まぁ…良いか。多分診てくれるさ。きっと。

それにしても…眠い。寝たい。でも寝ない。


「寝るんじゃねーぞ。ツナ」


懐かしい声が鼓膜を刺激する。顔をそちらへ向ける気力がなくて、声だけで反応した。


「寝ない寝ない。ここで寝るぐらいならもっとずっと獄寺くんのハグを楽しんでいたから。それを我慢したオレ。偉くない?」

「全然」

「ひど…」


即答された返答に思わず呻く。…本当こいつはいつまで経っても変わらない。


「とりあえずナターレは明日だ。そして今日からお前のことはダメツナではなく三年寝太郎と呼んでやろう」

「うーわオレそんなに寝てたか…良くオレ今までベッドの中にいられたものだ」

「獄寺一時は発狂しそうだったぞ」

「支えてくれた?なら礼を言うよ」

「んなもんいらねぇから三年間分の仕事でも片付けろ」

「…厳しい」


本当、現実は結構甘くない。


けれどオレの復活に涙すら流して喜んでくれた獄寺くんを思い出すと…それでも目が覚めて良かったと、日付の変わる音を聞きながら思った。

…まぁ、そんな青い感想もこの後溜まりに溜まった仕事の量を見るまでだったんだけど…

いや、あの量はない。マジで。


++++++++++

…でも、まあ、とりあえず、ただいま。