消えたお前
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周りは獄寺が目覚めたことを喜んだし、獄寺の記憶を諦めようともしなかった。
写真を見せ思い出話を聞かせる。獄寺は黙って話を聞いていた。言われたことは一度で覚えた。
ただし、あくまで覚えただけだ。思い出したわけではない。
その様子を見ていると、なんだか獄寺にそっくりな別人を獄寺に仕立て上げようとしているような、そんな雰囲気を感じた。
そんな日々が暫く続いた。成果は一応あったのか、獄寺は一見、以前通りに戻った。
だがそれは見せかけだ。獄寺はただ求められるままに以前の自分を演じているだけに過ぎない。
過去のトラウマも消え、ビアンキを見ても腹痛を起こさない。過去の衝突を忘れ、骸や雲雀を見ても敵意を感じない。
…ツナに助けられた記憶を失い、ツナに対する敬意が以前より薄れた。
別人だ。あいつは獄寺じゃない。
そう思い、オレはあいつを見限った。接触を避け、会話もしなかった。
しかし周りはそれが気に食わなかったらしい。会うたびに文句を言われた。そして最後には会え、会話しろ、接触しろと言う。
まるで、オレがあいつを避けているから記憶が戻らないんだと。そう言われているようだった。
馬鹿げている。
オレ一人が話して全てが解決するのなら、誰も苦労などしないのに。
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