消えた世界
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「…何やってるの?お前」


きがつくと、すぐめのまえにきんのかみのひとがいた。

きんのかみのひとはおれのちをぬぐう。あかがきえる。


「何殴られて黙ったままでいるのさ…そんなに温厚な奴だったっけ?お前」


きんのかみのひとがなにかいってる。けれどおれにはわからない。ただただだまってみてるだけ。


「…っ」


そんなおれのたいどがきにくわなかったのか、きんのかみのひとはおれをぶった。またとびちるあか。せかいにひろがるあか。

きんのかみのひとがおこってる。おれがげんきょうなのだろうか。…わからない。

きんのかみのひとをみて。なにかをおもいだしかける。

だれだろう。おもいだしたい。おもいだせればきっとせかいがかわる。そんなきがする。


なのに…おもいだせない。


きんのかみのひとはまだおれをなぐる。おれをきずつける。しろがきえる。あかがひろがる。

いたみはもうあまりかんじとれなくて。でもせかいがくらくなっていって。

おれはじぶんのほねがきしむおとをききながら、ねむりにおちた。



めがさめると。きんのかみのひとはいなくてこんどはおおきなおおきなひとがいた。

このひとは。しっている。このひとだけは、しっている。


「ぁ……う、」


もはやぼいんしかこえがだせないなか、たったひとつだけだせるたんごをどうにかのどからしぼりだす。


「あっぁ…じゅ…だぃ、め…」


うまくいえただろうか。わからない。みみはきのうをほぼうしなっている。


「じゅ…だ…め、じゅうっ、だい、め……10代目…」


いえた。きっといまのはうまくいえた。それがうれしくて、おれはわらう。

10代目。そのことばのいみすらおれはもうおぼえてないけど。

でもそれはきっと。とてもとてもたいせつでだいじなこと。ぜったいにわすれてはいけないこと。


「じゅうだいめ、じゅう、だいめ、じ…だめ…」


おれはなんどもそのたんごをはく。めのまえのおおきなひとはそれをどうおもっているのだろうか。わからない。

ただ、おおきなひとはおれのあごをつかんで。


「じゅうだ…」


ことばをふさぐように、あらあらしいくちづけをおれにかわしてきた。



夢を見ている。これは夢なんだとわかる。

それは楽しかった日常。みんながいる世界の話。

そこには一体誰がいるのだろう。たいせつなひとと。頼りになる奴と。

苦手な人と。面白い奴と。昔からの知り合いと。変な奴と…


そして。だいすきな人と。


なのにオレにはその人たちの顔が思い出せない。声を思い出せない。何も思い出せない。

夢のあとに目を覚ますと全てを忘れる。

だからオレは10代目を殺した奴に10代目の面影を重ねて。10代目と慕っている。


…今日も。明日もきっと。


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いつまでも、変わらず。