消え行くお前
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―――――2年ほど前、獄寺隼人は倒れた。

目覚めた獄寺隼人は、記憶を失っていた。

今のオレにはそれまでの獄寺隼人が培ってきた経験も記憶もない。

オレの認識としては、獄寺隼人は、死んだことになっている。

獄寺隼人は2年前に死に、そしてオレが2年前に生まれた。


それが、オレの中での事実となっている。


…どうしたい、か。

まだその時ではないのに、気の早い話だ、と思う傍ら、今しか出来ない話なのだろうな、とも思える。まだそれぐらい思考出来るだけの頭はある。

記憶がなくなった次の獄寺隼人に、いきなりどうしたいと聞かれても、何も答えられないだろう。オレだって目覚めたばかりの頃聞かれても答えられなかっただろうし。

それに今はリボーンさんしか人がいない。きっと、他の人間にはこんなこと言えない。


あの、獄寺隼人を愛する人たちの前で、こんなこと、言えない。

リボーンさんだけだ。オレが獄寺隼人を演じないでもいい相手は。


きっと、リボーンさんは他の人間より、獄寺隼人に思う感情が薄いのだろう。オレにとってはありがたい話だ。

おかげで気兼ねなく、話すことが出来る。


「そう、ですね…」


オレも口を開く。リボーンさんは黙ってオレを見ている。

そうですね、とは言っても、どうしよう。なんと言おう。


オレはどうしたいんだろう。

オレはどうありたいんだろう。


獄寺隼人を演じなくてはならないとはいえ、裏稼業に手を染めているとはいえ、周りの人間には恵まれているし、守りたいとも思う。

これはきっと前の獄寺隼人も思っていることだろう。そして今のオレも思うということは、次のオレも思うことだろう。

なら、オレの意思は、きっと全員の獄寺隼人と同じもののはずだ。

そう思い、喉から声を出す。


「切り捨てて下さい」


オレの言葉に、リボーンさんは無言。眉一つ動かさない。動じない。


「役立たずになって、みんなの足を引っ張るのはごめんです。そうなる前に―――切り捨てて下さい」

「…それが、お前の願いか」


リボーンさんが確認を取る。それにオレは頷く。

遠慮なく、切り捨てて下さいと。無慈悲に、無造作に、殺して下さいと。


リボーンさんが頷き、

オレは笑う。


こうして未来は確立され、

オレはその日までの道を歩み出す。


++++++++++

これで、安心して、その日まで歩ける。