四季を共に
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「で、どうするんだ?」

「え?」

「お前はこれからどうするんだ?」

「え…ええと、その…とりあえずここを出ます」

「そうか」

「はい。…これ以上あなたのお世話になるわけにはいきませんから」


少し寂しそうにハヤトが言った。


「えー勿体無い。そのままここに住んじゃえばいいのに」


と、声が聞こえた。入口の方から。

オレとハヤトが同時にそちらを見遣る。

そこにはオレの知り合いが立っていた。ニヤニヤとした表情を貼り付けて。


「あの堅物のリボーンがこんな女の子に興味があったとは…いや意外や意外」

「そういうのじゃない」

「あ、あの…?」


ハヤトが身を固くしてオレに問い掛ける。オレが答えるよりも先にあいつが自分で答えた。


「ああ、そんな警戒しなくても大丈夫。オレはリボーンの親友で沢田綱吉っていうの。よろしく」

「誰が親友だ誰が」


ハヤトを見れば、まだ少し怯えていた。ツナの自己紹介ではハヤトの不安を拭いきれなかったらしい。


「…まぁ、変な奴だが悪い奴じゃない。そう身構えなくても大丈夫だ」

「………はい」

「…人のよさそうなオレが滅茶苦茶怖い顔してるリボーンに負けるだなんて!!オレはショックだよ!!」


やかましい。


「それはそうと、なにリボーン。せっかくその子助けたのに追い出すわけ?」

「こいつが自分で出て行くと言ってるんだ」

「記憶がないんでしょ?ここらの治安ってよくないんだから、そんなか弱い女の子すぐに悪い大人に捕まるか野たれ死んじゃうよ?」


ツナの言葉にハヤトの肩が震える。


「…お前、一体どこから聞いてたんだ?」

「別に聞くつもりはなかったんだって。不可抗力って奴」

「………」

「そんな睨まないでよ。それより、今の話はその子の今後だよ」

「お前はこいつをずっとここに置いとけって言うのか?流石のオレも、そこまでお人好しじゃないぞ」


ただ、と付け加える。


「ただ…まぁ、この屋敷をオレ一人で管理するのは手間だと思ってはいたところだ」

「お?」

「使用人の募集を掛けようかとも思っていた。だから―――」


オレはハヤトを見て、


「お前がここで住み込みで働くというのなら、置いてやらんでもない」


と言うと、ハヤトはぱぁあと顔を綻ばせ花も咲くような笑顔になり何度も何度も頭を下げた。


「し、死ぬ気で働きます!!ハヤトは死ぬ気でなんでもやっちゃいますから!!」

「いや、別にそこまではいい…」

「それに女の子が何でもとかぽんぽんと言っちゃダメだよーこの変態に一体何をされることやら!!」

「誰が変態だ誰が」

「まぁまぁ。ああ、それよりあれだよ。図らずとも聞き耳を立ててしまったお詫びにメイド服あげるから。あとでこの子に着せてあげるといい」


…言い忘れていたが、オレの住んでいるここはそこそこ大きな屋敷だ。で、目の前のこいつ…オレの悪友のツナもでけぇ屋敷に住んでいる。使用人もいるって訳だ。


「そうだな。そうしてくれ」

「服のほかその他もろもろ必要品日常品付けて届けさせるよ。リボーンはそういうところに気付かなさそうだし」


ツナはそう言うと「じゃあ早速荷物纏めに帰る」と告げて屋敷を後にした。あいつは一体何をしに来たんだ。

ツナの去ったドアから目線をハヤトに戻すと、ハヤトは泣きそうな顔になっていた。


「どうした?」

「あ、ああ…ごめんなさい…気が、抜けちゃって……」

「………」


オレはハヤトの頭を撫でた。


「…?」


ハヤトが不思議そうにオレを見上げる。


「…まぁ、なんだ。とりあえずここにはお前が怖がるようなものは何もないから、安心しろ」


ハヤトの目から涙が零れた。


「ひっく、ありがとう…ありがとう……ございます………はい、ハヤトは頑張ります!!ハヤトは立派なメイドになって見せますからね!!」

「ああ。期待している」

「はい!!お任せくださいご主人さま!!!」

「誰がご主人さまだ誰が!!!」


オレは思わずハヤトの額にチョップをぶちかましていた。

あとオレのことは名前呼びするように言った。

それがオレの、ハヤトにする最初の命令だった。