頭の中に思い描くあの人は
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帰宅する。誰もいない部屋に入る。

冷たい空気。暗い部屋。明かりを点けても変わらない。

荷物を適当に置き、ソファに身を任せる。無音が耳に痛い。

とはいえ、特にやることもない。ピアノ…も今は気分ではない。


…ああ、そういえば、


立ち上がり、獄寺は荷物の一つを漁る。

袋の中から取り出すはコーヒー豆。

何となく、とある方が喜ぶかも知れぬと思わず買ってしまった一品。

獄寺は暫しそれを見つめ、思考を巡らせる。


…味も知らぬまま渡すのは失礼ではなかろうか。

味見ぐらいしておいた方がいいのではないか。

丁度ミルも買ってきたし。

いや、ほら、デザインがな、よかったんだよ。うん。


そんなわけで早速用意を始める獄寺。

とある方の好むエスプレッソは極細挽き、という一番細かい形状になるまで挽くらしい。砂糖に例えると上白糖くらいだとか。

ミルに豆を入れ、ハンドルを回す。

豆が砕ける感触。砕かれ、削られ、粉となっていく。

暫くして、豆が完全に粉と化した。これを今度は抽出器に移す。

上のバスケットに粉、下のバスケットに水を入れて火にかける。水が湯となり上がってくれば…


…おお、出来た。

これをいつもあの方は飲んでいるのか…


目の前にあるカップに注がれたコーヒーを見つめ、何故かどこか感慨深く感じる獄寺。

実はビスコッティなども用意していたりして。


おお、完璧ではないか。


どことなくワクワクしながらカップに手を伸ばす獄寺。

しかしその手が届くよりも前に音が辺りに鳴り響いた。この家のチャイムの音が。

はて、一体誰だろうと玄関へと向かう獄寺。

ドアを開けた先にいた人物を見て獄寺は驚いた。

そこには、ずっと頭で思い描いていた人物が立っていたのだから。


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何て都合のいい。これは夢ではなかろうか。