それはある日の午後の事
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太陽が真上に昇るお昼頃。窓際の席で頬杖を付きながら、獄寺くんが何かを手にして弄んでいた。

なんだろうと思って黙ったまま後ろから覗き込んでみる。

獄寺くんがつまらなさそうに手先でくるくると回しているもの。は――…


「眼鏡?」

「うわ!?」


思わず出た言葉に思った以上に取り乱す獄寺くん。手元から眼鏡が弾け飛ぶけど地に落ちる前に無事キャッチする。


「あ…ごめん獄寺くん。驚かすつもりはなかったんだけど」

「いえ…何か御用ですか?あ、先程提出した報告書ですか?」

「いや、違うよ。…ただ獄寺くんが何してるのかなーって思ってね」


憂い顔でどこか遠くを見るような獄寺くんは気にかけるのに充分な威力を持っているけど黙っておく。

この子にはそれは理解出来ないだろうし何より…今更手は出せないし。


「それにしてもなんで眼鏡?獄寺くん視力落ちた?」

「そういうわけではないんですけど…その、柿本が」

「柿本が?」


柿本…そうか。あの眼鏡は彼の私物か…でもそれがなんでまた獄寺くんの手の中に?


「あいつが…自分が死んだら、形見にするように、って……」

「………」


柿本千種。

六道骸の従者で、そして獄寺くんの恋人。

彼は先日、獄寺くんと共にある大きな抗争へ向かい…そして……


「…獄寺くん…彼はそこで…」

「あの馬鹿は、爆風からオレを庇って…あとは、10代目も知ってる通りです」

「……獄寺くん。あのさ…一つだけ、いいかな…」

「はい?」


穏やかな顔でこちらを見てくる獄寺くん。彼にもオレが何を言わんとしているのか伝わったのかも知れない。いや、間違いなく伝わってる。


「その柿本って…あの任務から全身擦り傷で帰還して来た柿本のこと?」

「そうです」


「気を失ってたから獄寺くんが背負って連れ帰った柿本のこと?むしろ獄寺くんの方が重傷だったよね?」

「まぁ…そんな事実もありましたね。はい」


「更に獄寺くんは今も包帯を巻きながら現場復帰しているのに当人は何故か未だ入院中の柿本のこと?ていうか毎日寝てるだけの柿本千種のことでいいのかな獄寺くん」

「その柿本ですが…どうなされましたか10代目」


ちょっと引き気味の獄寺くん。だが突っ込みたい。突っ込み属性として。


「柿本。死んでないじゃん」

「ええ。だから掛けてません」


どうやら彼は自分が死んだら眼鏡を掛けろと獄寺くんに言ったらしい。


「じゃあ彼が死んだら掛けるの?」

「何言ってるんですか10代目」


獄寺くんは眼鏡を胸ポケットに仕舞って。


「あいつはオレが殺させません。だからオレが眼鏡を掛ける日も一生来ないということです」


そう自信満々に言い放った。

獄寺くんの眼鏡姿が見てみたかったオレとしては少し残念だった。


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9779キリリク「柿獄で死にネタ&シリアス以外」

小町様へ捧げさせて頂きます。

リクエストありがとうございました。