籠の中の小鳥
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オレは信じられなかった。あのリボーンさんがオレの願いを聞き届けてくれるなんて。思いもよらなかったから。


「本当に……10代目ですか」

『あははははっリボーン全然信用されてないね』


すぐそこにリボーンさんがいるだろうに、10代目は面白そうに、可笑しそうに笑う。


『…ま、オレは本物の綱吉だから。なんなら、オレと獄寺くんしか知らないような事をここで暴露してあげようか?』

「い、いえ…結構です」

『うん。オレもそうしたほうがいいと思う。………で、オレをわざわざ呼んだのって…』

「………」

『山本の、事?』

「……………。はい」

『ごめんね。オレには止められなかった。…それどころか、逆に山本に殴られちゃって…あはは。未だオレはダメツナのままのようだね』


悔しい、と苦い口調の10代目。自分を嘆いていた。


「…10代目。お願いがあります」

『…なに?やっぱり、任務破棄?だったら別の誰かにやってもらうけど』


気軽い口調で10代目はそう言って。でも、それをするのは言うほど軽いものであるはずがなくて。

―――けれど。


「…違います」


オレの口をついて出たのは、否定の言葉。


『…だろうね。そのくらいなら、リボーンに頼んでも良かった。わざわざオレに回したのは…何故?』

「―――10代目」

『うん』


オレは息をすっと吸って。覚悟を決めて。その言葉を放った。


「お願いです。山本を、堅気の世界に帰して下さい」



―――――時が。止まった。



暫く沈黙。誰も、何も話さない。話せない。


『…また、大きな事を言うね。未だかつてない、大事だ』

「分かってます」

『オレはボンゴレの10代目。そしてキミはオレの右腕。つまり部下だ。この意味、分かってる?』

「解ってます」

『オレの命にキミが動く事はあっても、キミの命にオレが動く事はない。あるはずがないって、判ってる?』

「判ってます」


わかってる故の―――願いなんです。


「10代目、これは、貴方の"右腕"のお願いではありません」

『―――――え?』

「…貴方の、"友達"の、獄寺隼人個人の。お願いですよ。…沢田、綱吉さん」

『―――――』

「…オレの友達の山本が、今いちゃいけない世界にいるんです。どうにかして助け出したい…でも、オレ一人の力では無理で…貴方の、綱吉さんの力が必要なんです」

『…ごく、でらくん――』

「…オレのお願い、聞いてくれますか?」


まさかそんなことを言われるなんて思わなかったのだろう。10代目は暫く沈黙して――けれど、やがて。


『…友達の頼みじゃ、断れないなぁ……』

「10代目―――」

『友達はオレの事そんな風に言わない』


すぐさま駄目出しが飛んでくる。オレは苦笑を隠しながら言い直す。


「綱吉さん」

『うん。…仕方ないなぁ、獄寺くんは』


電話の向こうから、おいツナ、なんて。リボーンさんの咎める声が聞こえる。


『リボーンは黙ってて。…あの時、獄寺くんの警告に従わなかったオレたちにも責任はあるって』

「10代目…オレ―――」

『気にしないで。…獄寺くんは溜め込み癖があって困る』

「でも…」

『いいから。…山本は今、そっちに向かっている。上手く空港まで誘導して欲しい』


一度こうだと決めた10代目の行動は早かった。前々からの計画のように、てきぱきと指示を出す。