籠の中の小鳥
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『獄寺くん…』

「はい?」


急に、10代目の声がしおらしくなって。指示を聞き漏らすまいとしていたオレは一瞬判断が遅れて。


『ごめんね…』


だから。その意味も理解することが出来なくて。


『気付くことが出来なくて…ごめんね』

「10代目…」


やがて。オレは理解する。10代目が謝るその訳を。


「…10代目が謝ることではないです」

『でも…オレは気付けなかった。一番キミの近くにいたはずなのに。…気付けなかった』

「それでも…やっぱり貴方が謝ることではないです」


だって。オレにとってはあれは日常で。当たり前だったのことだったのだから。


「…って、まさかその情報を10代目が知ったのって…あの馬鹿がですか?」

『あはは。そう。いきなりオレの部屋に乗り込んできて…』

「まさかあの馬鹿が10代目を殴ったのって…それが原因なんですか?」

『あはは…』


力なく笑う10代目に、オレは怒りを通り越して呆れてしまう。


「……なんか、あいつを助けたくなくなりました」

『駄目だよ。計画は実行する。必ずね』


さっきまでと言ってる事がお互い逆になってる。それが何故だか可笑しくて。笑ってしまう。


「そうですか…そうですね。必ず。成功させましょう―――10代目」

『何?』

「ありがとうございます。そして―――――…ごめんなさい」

『―――うん。でもその言葉は、オレに直に言って欲しいなぁ』

「いえ、きっともう。オレは―――貴方に逢えません」

『……え?ちょっと、獄寺くん?』

「だからこの場で…10代目、今まで、本当にありがとうございました」

『――獄寺くん…?…待って、獄寺くん!』

「オレは山本を空港まで送ったあと―――ミッション『オールデッド』に参加します」

『そんな―――オレは認めない!獄寺くん戻って来い!!』

「10代目、オレがまともに動けるのは今回が最後になるでしょう。今回を逃したら、きっとオレはただの役立たずに成り下がります」


『だからって…!』


埒が明かないと悟ったオレは、10代目から意識を逸らす。


「…リボーンさん、聞こえているのでしょう?オレは『オールデッド』へ踏み込みます。許可を」

『ああ、どうせ最後だ。派手に散って来い』


リボーンさんが10代目の電話をもぎ取ったのだろう、声が聞こえた。


「…ありがとうございます。今まで、お世話になりました」


10代目の声が遠くで聞こえる。 止めろ 行くな オレは許可なんて出してない そんなことをしたらオレは一生キミを許さない!

携帯から聞こえる10代目の声の更に遠くから。何か音が聞こえてくる。それは人の足音。…あの馬鹿の、足音。

――さて、どう誘導しようか。嘘は嫌いだがこの際仕方ない。さてどうしようとぼんやりと考える。

…ぼんやりついでに、感情が凍結していくような錯覚を覚える。…まずいな、この感覚は確か、発作の前兆―――

思考が追いつく前に。その人物が現れる。閉じていたドアを乱暴に開けて。オレを見て。


「一緒に、逃げよう」


開口一番に山本はそう告げた。汗だくになりながら。それでもオレを真っ直ぐに見て。


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さて、これからこいつを平和な世界前までエスコートしてやりますか。