無害な吸血鬼
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誰かに呼ばれたような気がして、オレは目を開けた。

飛び込んできたのは目一杯の青空。漂う雲。鳥の囀ずり。

少しして、オレは寝ぼけているのだ、ということに気付いた。

今、オレの名が呼ばれるはずなどない。


ここには誰もいない。


いや、ひとりいるにはいるのだけれど、あの人は今ここにはいない。いたとしてもオレの名前を呼ぶことはしない。いや、呼ぶけど。

あの人がオレの名を呼ぶのは月に一度だけ。しかもそれはつい最近あったことだ。

オレは名を呼ばれたいのだろうか。少し考えて、すぐに結論を出す。呼ばれたいと。

幻聴が聞こえるほどだ。きっと呼ばれたい。あの人に。ゴクデラと。

思うだけで、あの人の声を脳内で呼び起こし、オレの名を呼ばせるだけで、なんだか気恥ずかしいような、嬉しいような。そんな気分になる。

名を呼ばれると、存在を認められたかのような、そんな気分になる。生きてていいぞ。ここにいていいぞと言われたかのような感覚を覚える。きっとオレはあの人の許可があってようやく生きている。存在している。

オレはぐっと伸びをし、気分を切り替える。


さて、夢心地はここまでだ。


あの人が帰ってくるまでに掃除をしておこう。別に散らかっているわけではないけれど、それがオレの仕事だ。少なくともオレはそう思っている。

あの人…リボーンさん。

人はリボーンさんのことを血を吸う鬼。

吸血鬼と呼んでいる。