無害な吸血鬼
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オレの眼前まで迫ってきた雲雀だったが、すぐに身を翻した。

直後、オレと雲雀の間、更に言えば先ほどまで雲雀の頭があった場所に何かが飛んできた。巨大なフォークのようなものだった。


「そこのあなた、大丈夫ですか!?」


どこかで聞いたことのあるような声。しかし思い出せない。

声のした方を見れば、誰がいた。物腰穏やそうな男。ああ、そうだ。先ほど街中で果物を拾ってくれた奴だ。

雲雀はといえば、忌々しそうな顔を男に向けていた。


「骸…」


そうか。あいつが骸か。


「雲雀くん、こんないたいけな少年に襲いかかってどういうつもりですか。あなたは強い方の血しか興味ないと言っていましたが、やはり嘘でしたか。これだから吸血鬼は信用できない」


信用できないのは雲雀だけにしてくれ。リボーンさんは信用できるから。

骸はオレに叫ぶ。


「もう大丈夫ですからね!すぐにそこの憎き吸血鬼を退治してさしあげますから!」


ああそうしてくれ。


「へぇ随分と大きく出たじゃない。今まで僕を何度も襲って、一度も倒せてないのに」


お前は負けろ。早く負けろ。


「あなたが規定外過ぎるんです。吸血鬼のくせに十字架もニンニクも効かない。銀の武器も気休め程度にしかならない。今だって日の下を歩いてる」


ふむ。どうやらあの本に書かれていたのは正しい情報らしいな。


「僕は特別なんだよ」


それはさっき聞いた。


「あなただけですよ。そんな吸血鬼は」


いや、リボーンさんもだ。

お互いに何かを言いあっている。しかしよく聞こえない。

眠い。どういうわけか。

首筋に手をやる。ぬるりとした感触。

見てみると、紅葉があった。

いや、違う。

紅葉じゃなかった。赤く濡れた、オレの手だった。


―――眠い。