無害な吸血鬼
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「お…お帰りなさい、リボーンさん…」
「?ああ。ただいま」
リボーンさんは部屋にいるオレを咎めない。リボーンさんの目線が、オレからオレの隣の骸に移る。
「彼の保護者の方ですか?僕は六道骸。彼が極悪な吸血鬼に襲われていたので、助けさせていただきました」
「極悪な吸血鬼?」
「ええ。名を雲雀と言って…今まで遠い地にいたのですが、何故かこの地まで。恐らく僕から逃げてきたのでしょう。しかしご心配なく。僕が追ってきましたから。必ず退治してみせます」
こいつが来たの雲雀のせいかよ。あの疫病神め。
オレははらはらしながら二人を見ていた。リボーンさんが吸血鬼と知られればリボーンさんが襲われてしまう。
幸い、今のところ骸はリボーンさんが吸血鬼であるとは気付いていないようだが…このまま気づかないでいてくれると嬉しい。そして雲雀と骸が共倒れになればいい。是非そうなってくれ。墓なら作ってやるから。
「雲雀は吸血鬼だが、極悪ではない」
「「え?」」
オレと骸が声を出す。リボーンさん、一体何を言い出すつもりで?
「雲雀は知り合いだ。お前から逃げたんじゃない。オレに会いに来ただけだ」
「………。まさかあなた。吸血鬼ですか?」
「そうだが、それが?」
ああ、リボーンさん。素敵です。素敵過ぎます。一生ついていきます。
そう思うオレの隣。骸の目の色が変わる。気配が豹変する。敵意、殺気、悪意が満ちる。
「…それはそれは…」
骸は巨大なフォーク……近くで見ると槍だとわかった。を手にする。オレはその手を掴む。
「あなた?」
「リボーンさんは悪い吸血鬼じゃない」
オレはそう口にする。リボーンさんには襲われる理由はない。
骸はどこか哀れむような、そんな顔を向けた。
「…いいえ。それは違います。吸血鬼は倒すべき存在。根っからの悪なんですよ」
「そんなことない!」
オレは声を張り上げる。リボーンさんは悪じゃない。断言できる。
「可哀想に…あいつに洗脳されてるんですね」
「違う!オレの意思だ!」
骸は聞く耳を持たない。リボーンさんを睨む。
「あなたは今まで血を吸った方の気持ちを考えたことがありますか?」
「いや、ないな。どうなんだ?獄寺」
「え?」
骸が驚いた目でオレを見る。オレは本心から答える。
「…幸せです。オレはリボーンさんに血を吸われているときが、一番満たされます」
「…あなたは、彼に血を吸われたと?」
「そうだ」
「牙を突き刺されて?」
「そうだ」
「ふむ」
骸は少し考えた。そして。
「じゃあ、あなたも吸血鬼だったんですね」
そういうと骸は、槍をオレの腹に突き刺した。腹と背に穴が空く。槍が貫通したのだ。
「かふ…っ」
空気を吐き出しながら、オレはあの、吸血鬼の生態という本に書かれていた一文を思い出していた。
曰く。吸血鬼に血を吸われた人間も吸血鬼になる。
腹と背と口から血が溢れだす。リボーンさんのベッドが汚れる。
なんとなしにリボーンさんを見ると、リボーンさんもオレを見ていた。目が合う。
リボーンさんは黙ってオレを見ていた。
オレの意識は、そこで落ちた。
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