無害な吸血鬼
21ページ/全35ページ


「オレは獄寺に名前を尋ねた。次に獄寺にどうしたいか尋ねた。獄寺は海が見たいと言った」

「え…?」


昔自分がしたであろう発言に驚く。そんなことを言ったのか。オレは。

死にかけたオレ。そんな身体で海が見たいと言ったオレ。その姿を見たリボーンさんは…なるほど。


「それで、オレを吸血鬼にしたんですね」


思わず呟いたオレを見て、リボーンさんはまぁ、そうだなと頷いた。

なるほど。

リボーンさんはオレの命の恩人だったんだな。嬉しい発見だ。

そんなオレの隣で、綱吉さんは、釈然としない顔でリボーンさんを見ていた。おそらく、なんでオレが口を開く前から質問が分かるんだ!と思っているのだろう。

それはオレも気になった。どうしてだろう。


「ん?…ああ、すまない。気をつけていたんだが」

「え?」

「オレは人の心が読めるんだ」


普段は読まないよう気をつけてるんだがな、とリボーンさんは事も無げにいい放つ。

オレはすごいなぁ、流石だなぁと思った。

横では綱吉さんが、複雑そうな顔をしていた。

…なら、今のオレが考えていることも分かるのだろうか?

オレはリボーンさんを見てみた。視線を感じたのかリボーンさんもオレを見て、目が合った。…なんだかものすごく気恥ずかしくなった。


(…リボーンさんがオレを傍に置くのは、置いてくれるのは……オレの血を、飲むためですか?)


一瞬の間。そしてリボーンさんが口を開く。


「いや、それは違う」

「え…」


まさかの否定に胸が詰まった。ならオレの存在価値は、いや、でも、オレは……


(でも、オレの血、必要ですよね?リボーンさんオレの血しか飲みませんもんね?血がないと、生きていけませんよね?)

「いや、そんなことない」


オレの頭に衝撃が走る。本当に、頭をガツンと殴られたかのような気分。


(オレ以外の人の血も、飲んでるんですか?)

「いや、オレはお前の血しか飲んだことはない。他の何も口にしたことはない。ただ単に、オレに食事は不要なだけだ」


言葉を失う。けれど同時に納得する。

そうだ、リボーンさんは、数千年も生きていて。オレと出会うまでは何も食べてなくて。それで平気で。

オレの血を飲んだのだって、オレの血を飲みたいと思ったんじゃなくて、死にかけたオレが海を見たいだなんて言ったからで、それで生き長らえさせるために―――仕方なく飲んだのであって。

じゃあなんでそれからもオレの血を飲んだのかって、それは、ああ、ああ。そうだ。

思い出す。五年前。オレが吸血鬼になって、初めての朝。

目の前にリボーンさんがいて…オレは何故だかリボーンさんの名前が分かって、心からリボーンさんの役に立ちたいと思って。


おはようございますリボーンさん。なにかオレに出来ることはありますか?


そんな言葉が口から出て。でもリボーンさんは暫く沈黙していた。今思えば、リボーンさんは少し困っていたのかもしれない。海を見たいと言って、起きて、これなのだから。

リボーンさんは暫し考えて、じゃあ、掃除。と言った。それからオレの仕事は掃除になった。

暫くして掃除を終わらせて、またリボーンさんに同じ問いをしに行った。リボーンさんは特にないと言ったが、オレは気が済まなかった。なにかしたい。リボーンさんの役に立ちたいと思った。

何でもいい、どんな些細なことでもいい。リボーンさんのために、オレに出来ることはありませんかと必死に言った。

それで、リボーンさんは…


嫌なら構わないんだが、お前の血を飲んでもいいか?


と、そう言ったんだ。


オレの血がうまい。というのは本当なのだろう。でなければ飲むわけがない。

それでもリボーンさんは、嫌なら構わないと言った。つまり、本当は…飲まなくてもよかった。ということだ。


ああ、そっか。なんだ。


オレ、いてもいなくても、どっちでもいいんだ。

それはそうだ。だってリボーンさんは、ずっとひとりで生きてきて。

そこに転がり込んできた、何も出来ない、邪魔なオレ。

それどころか、リボーンさんに負担をかけ、迷惑をかける始末。

ああ、オレ、いない方がいいんだ。

綱吉さんが怪訝な顔をしてオレとリボーンさんを見ていた。