無害な吸血鬼
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「オレは獄寺に名前を尋ねた。次に獄寺にどうしたいか尋ねた。獄寺は海が見たいと言った」
「え…?」
昔自分がしたであろう発言に驚く。そんなことを言ったのか。オレは。
死にかけたオレ。そんな身体で海が見たいと言ったオレ。その姿を見たリボーンさんは…なるほど。
「それで、オレを吸血鬼にしたんですね」
思わず呟いたオレを見て、リボーンさんはまぁ、そうだなと頷いた。
なるほど。
リボーンさんはオレの命の恩人だったんだな。嬉しい発見だ。
そんなオレの隣で、綱吉さんは、釈然としない顔でリボーンさんを見ていた。おそらく、なんでオレが口を開く前から質問が分かるんだ!と思っているのだろう。
それはオレも気になった。どうしてだろう。
「ん?…ああ、すまない。気をつけていたんだが」
「え?」
「オレは人の心が読めるんだ」
普段は読まないよう気をつけてるんだがな、とリボーンさんは事も無げにいい放つ。
オレはすごいなぁ、流石だなぁと思った。
横では綱吉さんが、複雑そうな顔をしていた。
…なら、今のオレが考えていることも分かるのだろうか?
オレはリボーンさんを見てみた。視線を感じたのかリボーンさんもオレを見て、目が合った。…なんだかものすごく気恥ずかしくなった。
(…リボーンさんがオレを傍に置くのは、置いてくれるのは……オレの血を、飲むためですか?)
一瞬の間。そしてリボーンさんが口を開く。
「いや、それは違う」
「え…」
まさかの否定に胸が詰まった。ならオレの存在価値は、いや、でも、オレは……
(でも、オレの血、必要ですよね?リボーンさんオレの血しか飲みませんもんね?血がないと、生きていけませんよね?)
「いや、そんなことない」
オレの頭に衝撃が走る。本当に、頭をガツンと殴られたかのような気分。
(オレ以外の人の血も、飲んでるんですか?)
「いや、オレはお前の血しか飲んだことはない。他の何も口にしたことはない。ただ単に、オレに食事は不要なだけだ」
言葉を失う。けれど同時に納得する。
そうだ、リボーンさんは、数千年も生きていて。オレと出会うまでは何も食べてなくて。それで平気で。
オレの血を飲んだのだって、オレの血を飲みたいと思ったんじゃなくて、死にかけたオレが海を見たいだなんて言ったからで、それで生き長らえさせるために―――仕方なく飲んだのであって。
じゃあなんでそれからもオレの血を飲んだのかって、それは、ああ、ああ。そうだ。
思い出す。五年前。オレが吸血鬼になって、初めての朝。
目の前にリボーンさんがいて…オレは何故だかリボーンさんの名前が分かって、心からリボーンさんの役に立ちたいと思って。
おはようございますリボーンさん。なにかオレに出来ることはありますか?
そんな言葉が口から出て。でもリボーンさんは暫く沈黙していた。今思えば、リボーンさんは少し困っていたのかもしれない。海を見たいと言って、起きて、これなのだから。
リボーンさんは暫し考えて、じゃあ、掃除。と言った。それからオレの仕事は掃除になった。
暫くして掃除を終わらせて、またリボーンさんに同じ問いをしに行った。リボーンさんは特にないと言ったが、オレは気が済まなかった。なにかしたい。リボーンさんの役に立ちたいと思った。
何でもいい、どんな些細なことでもいい。リボーンさんのために、オレに出来ることはありませんかと必死に言った。
それで、リボーンさんは…
嫌なら構わないんだが、お前の血を飲んでもいいか?
と、そう言ったんだ。
オレの血がうまい。というのは本当なのだろう。でなければ飲むわけがない。
それでもリボーンさんは、嫌なら構わないと言った。つまり、本当は…飲まなくてもよかった。ということだ。
ああ、そっか。なんだ。
オレ、いてもいなくても、どっちでもいいんだ。
それはそうだ。だってリボーンさんは、ずっとひとりで生きてきて。
そこに転がり込んできた、何も出来ない、邪魔なオレ。
それどころか、リボーンさんに負担をかけ、迷惑をかける始末。
ああ、オレ、いない方がいいんだ。
綱吉さんが怪訝な顔をしてオレとリボーンさんを見ていた。
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