無害な吸血鬼
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それから、そのあと9代目が現れて、オレたちは「もう寝なさい」と部屋を追い出されてしまった。


「…寝ましょうか、綱吉さん」

「…うん」


綱吉さんは釈然としない顔で頷いた。

オレは寝室に進んだ。綱吉さんもオレと同じ方向に進んだ。というか、同じ部屋だった。いつの間にか部屋の中にベッドがひとつ増えていた。

部屋に着き、綱吉さんがカーテンを開ける。あ、とオレは小さく声を出した。綱吉さんはオレが何故ここにいるのか知らないのだろうか。オレはカーテンを閉めようとして、けれど外の景色を見て身体の動きを止めた。

窓の外は、一面の海だった。


「海が見たい…ね」


綱吉さんが呟く。

海は大きかった。暗かったが、月明かりで海があると分かった。耳をすませば波の音まで聞こえてきそうだった。


「海を見れた獄寺くんは、満足したの?」


問いかける綱吉さんはオレでなく海を見ている。オレは何も答えられないでいた。

海を見たいと言ったことを、オレは覚えていない。

オレが何を思って、何を望んで海を見たいと言ったのか、今のオレには分からない。


「獄寺くんは今の生活に…リボーンに満足してるの?」


綱吉さんが続けて質問した。オレは安心した。その問いになら答えられる。


「満足してますよ」


穏やかな声が喉から出た。綱吉さんが振り向く。


「今の生活にもリボーンさんにも満足してますよ」


満足していましたよ。幸せでしたよ。オレは。本当に。


「…そう」


綱吉さんは顔を俯かせて答えた。


「眠りましょう。綱吉さん。オレは眠いです」

「…わかったよ」


綱吉さんは顔を上げて答えた。

何故かは分からないけど、その顔は苦笑していた。

カーテンを閉めて、隣り合わせのベッドで眠る。オレの意識はすぐに落ちていった。