無害な吸血鬼
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そして起きたとき、隣のベッドに綱吉さんはいなかった。
…寝過ごしてしまっただろうか。
身を起こし、着替える。洗濯物を持って洗面台に向かった。
その途中でも綱吉さんの姿を見ることはなかった。
…もしかして、帰られた?
だとしたらお別れの挨拶ぐらいしたかったな…と思っていると、使用人の一人とばったり出くわした。
ちょうどいい。綱吉さんのことを聞こう。
そう思って声をかけようとしたら、逆に向こうから声をかけられた。
「綱吉様がどこにいるか知りませんか!?」
「…え?」
今まさに聞こうとしていたことを聞かれ、オレの思考が停止する。使用人はオレに構わず言葉を続ける。
「どこを探しても見つからないんです!ああ、綱吉様…」
「………」
オレは使用人に、綱吉さんは寝る前まで同じ部屋にいたが、起きたらいなかった。いつ部屋を出たのかは分からないと告げて別れた。
周りを見てみると、どこか落ち着きがないような、慌ているような雰囲気を感じる。
ああ、みんな、綱吉さんを探してるんだ。
オレも探そうか。とはいえオレよりも周りの方が屋敷の中も外も詳しいだろう。というかオレは外出禁止だ。下手に動くとかえって迷惑になりそうだな。
屋敷のみんながどたばたと駆けている。綱吉さんのために。
「………」
オレはそんなみんなの様子を、どこかぼんやりした顔で見ていた。
…おそらく。
おそらく、オレが今の綱吉さんと同じことになっても。誰も探さないのだろう。
そんなことを、何故か思った。
酷く、虚しい気分になった。
そのときだった。
コンコンと、後ろから音。
振り向くも、そこはカーテン。音はその向こうから。
オレはそっと、少しだけカーテンを開いてみた。
そこにいたのは、一羽の梟。音は窓を嘴で突いた音か。
…梟って夜行性じゃなかったか…?なんで朝っぱらからいるんだ?
疑問を覚える中、梟と目が合う。オッドアイ。どこか見覚えがあった。
少し考えて、思い出す。骸だ。
『沢田綱吉は預かりました』
梟が喋る。というか声が頭に響いてくる。その声は骸のものだった。
『返してほしくば、ひとりで、誰にも何も言わずにあの城まで帰ってきなさい』
梟はそれだけ言うと、羽ばたいて行ってしまった。
「………」
どうやら綱吉さんをどこかにやったのは骸で、その原因がオレらしいな。
綱吉さんには悪いことをしてしまった。
オレはすぐに向かうことにした。
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