無害な吸血鬼
23ページ/全35ページ


そして起きたとき、隣のベッドに綱吉さんはいなかった。

…寝過ごしてしまっただろうか。

身を起こし、着替える。洗濯物を持って洗面台に向かった。

その途中でも綱吉さんの姿を見ることはなかった。


…もしかして、帰られた?


だとしたらお別れの挨拶ぐらいしたかったな…と思っていると、使用人の一人とばったり出くわした。

ちょうどいい。綱吉さんのことを聞こう。

そう思って声をかけようとしたら、逆に向こうから声をかけられた。


「綱吉様がどこにいるか知りませんか!?」

「…え?」


今まさに聞こうとしていたことを聞かれ、オレの思考が停止する。使用人はオレに構わず言葉を続ける。


「どこを探しても見つからないんです!ああ、綱吉様…」

「………」


オレは使用人に、綱吉さんは寝る前まで同じ部屋にいたが、起きたらいなかった。いつ部屋を出たのかは分からないと告げて別れた。

周りを見てみると、どこか落ち着きがないような、慌ているような雰囲気を感じる。

ああ、みんな、綱吉さんを探してるんだ。

オレも探そうか。とはいえオレよりも周りの方が屋敷の中も外も詳しいだろう。というかオレは外出禁止だ。下手に動くとかえって迷惑になりそうだな。

屋敷のみんながどたばたと駆けている。綱吉さんのために。


「………」


オレはそんなみんなの様子を、どこかぼんやりした顔で見ていた。

…おそらく。

おそらく、オレが今の綱吉さんと同じことになっても。誰も探さないのだろう。

そんなことを、何故か思った。

酷く、虚しい気分になった。


そのときだった。

コンコンと、後ろから音。

振り向くも、そこはカーテン。音はその向こうから。

オレはそっと、少しだけカーテンを開いてみた。

そこにいたのは、一羽の梟。音は窓を嘴で突いた音か。

…梟って夜行性じゃなかったか…?なんで朝っぱらからいるんだ?

疑問を覚える中、梟と目が合う。オッドアイ。どこか見覚えがあった。

少し考えて、思い出す。骸だ。


『沢田綱吉は預かりました』


梟が喋る。というか声が頭に響いてくる。その声は骸のものだった。


『返してほしくば、ひとりで、誰にも何も言わずにあの城まで帰ってきなさい』


梟はそれだけ言うと、羽ばたいて行ってしまった。


「………」


どうやら綱吉さんをどこかにやったのは骸で、その原因がオレらしいな。

綱吉さんには悪いことをしてしまった。

オレはすぐに向かうことにした。