無害な吸血鬼
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記憶は思い出したくないことまで呼び起こす。
ある日、10代目に家まで遊びにこないかと、誘われた。
行かなければよかったのだ。断ればよかった。
けれど、なにも知らないオレは、なにも分からないオレは…二つ返事で了承した。してしまった。
10代目の家は、あたたかかった。
優しい母親。面白い父親。笑顔の絶えない家庭。
あたたかい食事。柔らかな毛布。清潔な部屋。
本当に現実か、信じ難かった。
夢じゃないかと思った。
こんな世界が、世の中に、こんな近くに、目と鼻の先にあるなんて…知らなかった。
知りたくなんて、なかった。
羨ましくなった。
妬ましくなった。
自分の汚さに、オレは泣いた。
「…獄寺くん?」
「10代目、ここは町外れの城の中です。場所、わかりますか?」
「う、うん」
「なら、早く屋敷にお戻りください。みんな心配してましたよ」
「獄寺くんは?獄寺くんも一緒に…」
「オレは…ここで人と会う約束がありますので…」
梟がじっとオレを見ている。
オレがおかしな真似をしたら攻撃してくるのだろう。…10代目を。
10代目を城から出す。
やはり見られたくは、ない。
オレの死体はきっとグロテスクだろうから、見られたく、ない。
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