無害な吸血鬼
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オレは本棚に仕舞われた本のタイトルを流し読む。
植物図鑑、料理のレシピ、動物の飼いかた、政治の仕組み。
色んな本がある。どれも勉強になる。
本棚を見上げながら、壁の端まで歩いて行くと。
「………?」
目を引くタイトルの、一冊の本を、見つけた。
「吸血鬼の生態」
吸血鬼の住んでいるところに吸血鬼の本があるとは。
人間の家に人間全集があるようなものか。またはうさぎ小屋にうさぎ図鑑があるような感じか。ところで人間全集ってなんだ。
まぁ、それはともかく吸血鬼の生態だ。それはつまり、リボーンさんの生態。
ふむ。興味がある。興味深い。
これを読めばリボーンさんのことがわかるのだろうか。例えばいつも朝から晩までなにをしているのか、とか。
思えばオレはリボーンさんのことをなにも知らない。それでいいのだろうか。いいや。よくない。
オレは嬉々としながら本に手を伸ばし、ページを開いた。
だが、オレの気持ちは数十ページも読まない内に萎んでしまった。本の内容とリボーンさんとでは全然違うのだ。違いすぎるのだ。
曰く、吸血鬼は夜活動し朝に眠る。
全く逆だ。リボーンさんは普通に朝起きて、夜眠る。
曰く、吸血鬼は日の光を嫌う。
そんなことない。日の光の中を普通にすたすた歩く。
曰く、吸血鬼は棺桶で眠る。
ベッドで眠っている。
曰く、吸血鬼は流れる川を渡れない。
いや、渡ってた。この目で見た。
…ううむ。これは困った。この本にはでたらめのことしか書いていないのだろうか。挿絵の吸血鬼も黒いマントだし。リボーンさんはいつもスーツだし。
しかしリボーンさんと共通しているところも見つけた。まず城に住んでいる。それから、血を吸う。
共通点はたったこれだけだ。他にオレには判断出来ないものもあるが。不老長寿である、姿を霧や蝙蝠に変える、十字架とニンニクが苦手、銀に弱い、心臓に木の杭を打たれると死ぬ…
…リボーンさんが、死ぬ。
そんなの考えたくもない。
リボーンさんはオレのすべて。オレの命。オレの心。
リボーンさんが死ぬのならオレも死ぬ。というか、出来ることならリボーンさんを庇って死んでしまいたい。
そんなことを思いながらページを捲る。
「吸血鬼は使い魔を使役している」
………。
使い魔。使役。
そういえば、リボーンさんにとってオレはなんなのだろうか。この使い魔とやらになるのだろうか。
だとするととても嬉しい。まぁ、たぶんきっと、違うだろうけど。
…リボーンさんはひとりでなんでもできるからな…
少し寂しい気分になりつつ、その日は終わった。
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