無害な吸血鬼
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槍がオレを貫く…その直前。
一陣の、風が吹いた。
窓が割れる。
誰かに抱き止められる。
見れば、そこには。
骸の武器を片手で受け止め、もう片方の手でオレを抱き止める―――リボーンさんの姿があった。
「またお前か。獄寺に手を出すのはやめてもらおう」
静かに響く声が、その人が本当にこの場にいることを教えてくれる。
この身を包む腕に力がこもる。
そのあたたかさの、なんと心地いいことか。
その眼差しの、なんと頼もしいことか。
けれど同時に、疑問も覚える。どうしてここに?今日もいつもと同じく出かけているはずなのに。
「屋敷の人間にお前が消えたと聞いて、探しに来た」
疑問の答えが出る。けれどそれは更なる疑問を呼び起こした。
どうしてオレが消えて、リボーンさんが探すのだろう。
オレはリボーンさんの邪魔者でしかないのに。
そんなオレの前、骸といえば武器を捕まれたまま静かに笑っているだけだ。
その笑みの、なんと暗いことか。
「かかりましたね」
骸の声が響く。
後ろから。
風を切る音。
リボーンさんの身体がぴくりと動く。
「避ければその子供を殺します」
オレがその言葉の意味を知るより前に。
リボーンさんの動きがぴたりと止まったと分かるより早く。
身体に何かが突き刺さる感触を覚えた。
自分の身体ではない。
密着している、リボーンさんの身体を何かが突き刺さっていた。
生暖かい何かが降ってくる。
赤い液体。
リボーンさんの口からこぼれている。
リボーンさんの身体に何かが突き刺さっている。
骸の槍だ。
骸の槍が、リボーンさんの身体を、胸を、心臓を―――貫いていた。
「り…ぼーん、さん…」
誰かがそう呟く。少しして、それは自分のかすれた声なのだと気付いた。
リボーンさんの口から、傷口から。赤が、血が溢れ出す。
オレはなにもできず、呆ただ呆然とリボーンさんを見上げる。
リボーンさんが、リボーンさんが、殺され、骸、槍、貫いて、血が、血が、血が…
急に理解したのか、理解したくないのに理解してしまったのか、オレの血の気が一気に引いた。心臓がばくばくと脈打っている。心臓?心臓!?ああ、早く。早くオレの心臓をリボーンさんに差し上げなければ!!
槍がずるりとリボーンさんの身体から引き抜かれる。槍にはべっとりと血が付いている。誰の血だ?リボーンさんの血だ。
「クハハ。そんな顔しなくても、次はあなたの番ですよ」
骸が槍を振るう。
オレは動けない。
けれど、それでもその槍がオレに当たることはなかった。
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