無害な吸血鬼
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あれから、一週間が過ぎた。

平穏で平和な日々が戻りつつあった。


骸からの襲撃もない。


恐らく雲雀だろう。あのあと雲雀が出てきて、「一戦交えてくれたらあいつをどうにかしておくけど」という提案をしてきたのだ。そしてリボーンさんは、それを飲んだ。

最初はそれでも渋っていたのだが、雲雀に骸がまた着たらオレが危ない目にあうと言われたのと、オレが雲雀に襲われたと言ったのを聞いて気持ちを固めたらしい。

リボーンさんと戦う雲雀はそれはそれは楽しそうだった。見ていてなんだか羨ましくなった。いや、別にリボーンさんと戦いたいわけではないが。ちなみに雲雀は負けた。ざまぁみろ。

それはともかく骸が来ないということは本当に雲雀がどうにかしてくれているのだろう。


10代目はどうしてあそこにいたのかと聞かれ、オレが起きるのを待っていると話す梟を見たのだ。と言った。骸のことだ。

梟を見たあとのことはよく覚えてないらしい。気が付いたらあの城にいたと言っていた。

10代目が骸になにかされてないかと心配したが、骸は人間に危害を加えるような奴ではないことを思い出した。骸が憎んでいるのは吸血鬼だけだ。

10代目は三日前に帰られた。「あまり遊べなかったね」と残念そうに笑っていた。


そういえば、リボーンさんが毎日なにをしていたのか聞いた。教えてもらった。驚いた。

リボーンさんは、仕事をしていたのだ。雇い主が9代目。仕事内容は9代目の護衛。

オレの食費や衣服などの雑貨を買うための金を稼いでいたのだ。


聞いたとき、オレは卒倒しそうになった。

オレのために、オレのせいで、リボーンさんが仕事を…


しかもリボーンさんは稼いだ金を自分には一切使ってないのだ。食事はオレの血だけだし、(しかもそれも本当は不要だし)服もどういうわけか汚れないし。

使ってください。どうか使ってくださいと懇願し土下座までしたがリボーンさんはいつも通りの表情で「オレには必要ない。お前が使え」の一点張りだった。

ならばとオレは自分にリボーンさんのためになにか出来ないかと聞いた。

オレのために仕事をするリボーンさんに、なにか酬いたかった。

リボーンさんは少し考えて、口を開いた。


「無理なら別にいいんだが、一日十六時間は起きてろ。寝過ぎは身体に悪い」


どういうことかと聞いてオレはまた驚いた。

オレは寝ると、丸一日起きないらしい。

オレが起きて、行動して、寝る。すると次の日は起きず、その日の翌朝にやっと起きるのだと言われた。


…全然気付かなかった…


オレはわかりましたと了承し、その日は寝た。

そして、今日、起きた。



「………」


朝、だ。

いつもよりだいぶ早い時間。

オレはどれほど寝たのだろうか。あれから二日経ってないだろうか。

部屋を出て通路を歩いているとリボーンさんと出くわした。これから仕事に行かれるのだろうか。


「起きたのか。獄寺」

「はい。おはようございます、リボーンさん」

「ああ、おはよう」


…きゅんきゅん。

朝の挨拶だけで胸がときめく。これからずっと早起きしよう。そうしよう。オレなら出来る!!


「…オレは、ちゃんと起きれましたか?」

「ああ。上出来だ」


頭に手を置かれる。大きな手がオレの髪を包み込む。


「これからお仕事ですか?」

「そうだ」


玄関まで二人、並んで歩く。

門を出る前でオレの足が止まる。リボーンさんの足は続く。オレはそうだ、とはっとした。声を出す。


「リボーンさん」


リボーンさんは呼ばれて振り向いた。その顔は「どうした」と告げている。


「…いってらっしゃい」


ずっと、その言葉を言いたかった。

家族に、言ってみたかった。

前の家族では、ずっと無視されていて、何も言えなかった。

リボーンさんが口を開く。


「ああ。行ってくる」


その顔は、いつも通りの無表情のはずなのに。

どこか笑っているように見えた。


++++++++++

後日、オレたちはリボーンさんの提案で、一緒に海に行く。