無害な吸血鬼
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ある日の昼下がり。穏やかな午後のこと。


「獄寺」


名前を呼ばれて、オレは立ち上がる。

今度は幻聴などではない。本物の声。あの人の声。リボーンさんの声。

たった一息程の声はオレの耳から脳内に入り体内に染み渡る。

あの人に呼ばれた。リボーンさんに呼ばれた。その事実がオレをこれ以上ないほど興奮させる。

だってリボーンさんに呼ばれるということは、リボーンさんがオレのことを必要にしているからにほかにない。あのリボーンさんが。このオレを。必要としている!これ以上嬉しいことが果たしてこの世界に存在するのだろうか!!

オレはすぐにリボーンさんの前まで赴く。リボーンさんはいつもと同じ無表情で、相変わらず何を考えているのかわからない。ううむ、クールだ。

リボーンさんはおもむろにオレを抱き寄せる。リボーンさんの香りがオレを包む。ああ、リボーンさんとこんなに近い距離にいれるなんて。ドキドキする。このまま時が止まってしまえばいいのに。

リボーンさんはオレの肩を掴む。首もとをはだけさせ、口を寄せた。

チクリと、首筋に痛みが走る。リボーンさんの牙がオレの皮膚を破ったのだ。

力が抜ける。オレの身体から血液が失われていく。リボーンさんの体内に入っていく。オレの身体の一部がリボーンさんの血肉となるのだ。その事実にぞくぞくする。オレが唯一、リボーンさんの為になれる行為。

リボーンさんは月に一度だけ血を吸う。オレの血を吸う。これがリボーンさんの食事だ。

いつも出掛けているリボーンさんだけれど、この日だけはずっと城にいる。リボーンさんといれて、オレはとても嬉しい。

頭がくらくらしてきて、身体が冷えてきたところでリボーンさんはオレを離した。

ああ残念。出来ることならもっとずっとリボーンさんと繋がっていたかった。軟弱なオレの身体が怨めしい。

立つことすらままならなくなったオレをリボーンさんは抱き抱えてベッドまで連れて行ってくれる。至福の一時。時よ止まれ。いやマジで。

ベッドの中からリボーンさんを見上げる。リボーンさんはもうオレを見てはおらず、部屋の出口を見ていた。


「リボーンさん」


気付いたら、オレはリボーンさんを呼んでいた。血が少なくなってるせいか、その声は自分でも驚くほど小さかった。

リボーンさんの耳に入らなかったかも知れない。とも思ったがリボーンさんは一瞬止まってオレの方を見た。リボーンさんの目にオレが写る。

リボーンさんは黙っている。なんだ?ともどうした?とも言わない。リボーンさんは必要最低限の言葉しか…いや、それどころか必要最低限の言葉すら言わないときもある。ああ、もちろんそんなあなたも素敵ですともリボーンさん。


「リボーンさんは、吸血鬼なんですよね」


構わずオレは言葉を続けた。リボーンさんがこちらを見ているということは、リボーンさんはオレの話を聞いてくれるということだ。

しかし我ながら変な質問だ。血を吸われた直後に聞くなんて。これで吸血鬼でなければなんだというのか。

しかしオレの頭の中ではこの間読んだ本の内容が気になっていた。吸血鬼の生態。リボーンさんのそれとまるで違うその本の内容が気になった。

リボーンさんはといえば、一瞬だけ間を置いて、


「そうらしい」


と答えてくれた。リボーンさんがオレの名以外を発音したのをオレは久しぶりに聞いた。

しかし、そうらしい?どういうことだ?確定してないのか?

こちらが黙ったままではリボーンさんは何も言わない。オレは再度質問する。そうらしい、とは?


「雲雀がそう言っていただけだからな」

「雲雀?」


雲雀。一応知っている。確か鳥の一種のはずだ。雲雀は喋るのか。知らなかった。あるいはリボーンさんが鳥の言葉が分かるのだろうか。

まぁ、それは置いておこう。オレは本の内容を思い出しながら更にリボーンさんに質問をする。