無害な吸血鬼
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オレはベッドの中でリボーンさんとの一時の語らいの余韻に浸っていた。
リボーンさんと僅かな時間ではあるが話すことが出来る。
そのことに感動し、更には味をしめたオレはそれから機会があればリボーンさんに話かけるようになった。
当然朝早くに城を出ていき、夜遅くに帰ってこられるリボーンさんには話しかけられない。
オレが話かけるのは月に一度のリボーンさんの食事の日だけだ。あの日、リボーンさんに話しかけてから数ヶ月が経っていた。つまり、オレは数回リボーンさんと話した。
といっても他愛のない話だ。やれ昼頃に犬が迷い込んできた、とかやれ食事の支度がうまくできた、とかやれ壁のしつこい汚れをようやく落とすことが出来た、とか。
そのたびリボーンさんは相槌を打ってくれたり、またあるときは打開案を示してくれた。
リボーンさんと会話出来る。リボーンさんの声が聞ける。
なんて素晴らしいんだろう。
ああ、こんなことならもっと早く話しかけておけばよかった!
ちなみに一度、どうしても気になってリボーンさんに「オレが話かけるのは迷惑ではないですか?」と聞いたことがあった。
リボーンさんはやはり一瞬間を置いて、「いや、そんなことはない」と言ってくれた。
正直、オレはほっとした。
これがもし迷惑であったのなら、オレはリボーンさんに申し訳がたたない。自分の為だけにリボーンさんに負担を強いていたなどと、仮にリボーンさんが許してくださってもオレが許せない。けじめと、詫びで二度と話かけるなどという愚行をせぬよう喉を潰していたところだ。もし迷惑であったなら。
しかしそうではないということで、オレは胸をときめかせながらリボーンさんに話しかけていた。それがつい数日前のことだ。
オレは血を吸われると、数日動けなくなる。貧血だろう。
オレがもっと血の気があったなら。もっと身体が大きかったなら。もっとリボーンさんに血を吸ってもらえるのに。
ベッドの中でオレはいつもそう思う。リボーンさんが極上と言ってくれたオレの血。もっともっと差し上げたい。
しかしオレに出来ることといえば動けるようになってからほうれん草やレバーをなるべくたくさん食べることだけだ。それと栄養バランスの取れた食事。規則正しい生活。全てはリボーンさんの為。
あと少ししたら身体も動けるようになるだろう。そうしたら書庫に行って血の増えるレシピを探してみよう。そうしよう。
わくわくする。早くその時が来ればいい。
眠ってしまおうと目を瞑る。寝たらきっと身体も回復すると信じて。
しかし一日中寝ていたオレの身体は全く睡魔を運んでこない。困ったものだ。
窓の外を見れば、煌々と月が輝いていた。星がきらびやかに光っている。
…今度星座の本も見てみよう。そうしよう。それともリボーンさんに聞いてみようか。リボーンさんとふたり、夜空を眺める…それが出来たのなら、それはなんて素敵な夜だろう!
笑みが止まらない。眠気はこない。そうだ、もうすぐリボーンさんが帰ってこられる時間だ。眠れないのならお迎えしよう。リボーンさんはいつもオレが起きる前に城を出ていき、オレが眠ったあとに帰ってくる。
お迎え、出迎えをしなければならない、と思うがどうしても無理なのだ。眠ってしまう。起きれない。一度、無理して城の門の前で待っていたときがあったのだが、結局眠ってしまったのだ。外で。門の前で。しかもそのときは丁度冬で、オレは風邪を引いてしまった。その月、リボーンさんは食事が出来なかった。今思い返しても自分の不甲斐なさに腹が立つ。
それ以降、オレはリボーンさんを出迎えることを諦めたのだが…今日は出来るかも知れない。いや、きっと出来る!
オレはリボーンさんを待つことにした。
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