無害な吸血鬼
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そう決意してから、数時間が経過しただろうか。

…風の動きが、変わった。

空気がざわめく。オレの産毛が逆立つ。


誰かが、来た。


リボーンさんではない。リボーンさんでは、決してない。リボーンさんが帰ってきたのなら空気はこんな風には絶対にならない。

知らない奴だ。心当たりもない。

不意に、この間書庫で読んだ本の内容を思い出す。吸血鬼の話。人間に狩られる話。

人間は吸血鬼を嫌うらしい。少なくとも、本の中では、そうだ。そして、退治する。

嫌な話だ。いけすかない。吸血鬼が、リボーンさんが一体人間に何をしたというのだ。いや、もしかしたら何かしているかも知れないけど。

相変わらずオレはリボーンさんが昼間外でなにをしているのか知らない。聞こう、聞こうと思っているのだが、いつも忘れてしまう。


それはともかく、今はこの侵入者だ。とオレは気を改める。

誰だか知らないが、リボーンさんの城を荒らす奴はオレが許さない。

オレはベッドから降りる。頭がくらくらし、身体がふらつくがしっかりしろと叱咤する。

侵入者の居場所は分かる。風の動き。臭いで分かる。早く追い出さないと。

とある部屋の前に着く。嗚呼、なんということだ。よりにもよって、ここは、リボーンさんの部屋ではないか!

怒りに身が焦げそうになる。ここはリボーンさんの部屋だ。リボーンさん以外が勝手に入っていいわけがない。あと掃除するときのオレ!!

扉を開ける。中には見知らぬ奴が、こともあろうにリボーンさんの椅子に座っていた。


「…誰、キミ」


そいつは椅子に座ったままそう言う。その目は気だるげで、なんというか、宛が外れた。とでも言いたげだった。


「お前が誰だ」


質問に答える気はない。オレの方が、立場は上だ。

そいつはオレの声が聞こえなかったかのように辺りを見渡し、また声を出す。


「リボーンはいないの?」

「リボーンさん?」


リボーンさんの名前が出て驚いた。リボーンさんの知り合いか?まさか客人なのか?いや、それでも来て早々この城の主であるリボーンさんの部屋に我が物顔で来ることないだろう。たぶん。

混乱するオレを尻目に、そいつはまるで独り言のように声を出す。


「彼を咬み殺しに来たんだけど」


殺す?

聞こえた言葉に、オレは耳を疑った。

殺すと、そうこいつは言ったのか?

誰を?リボーンさんを?


リボーンさんを、殺しに来たのか?


オレの身体が熱くなる。

きっとオレの身体の中を流れる血が、怒りのあまりに沸騰したからに違いない。

こいつは、敵だ。

こいつはリボーンさんに危害を加えようとしている。

許せない。

オレの目線に気付いたのか、そいつはオレに目を向ける。


「ん?なに?どうしたの?」


なにもどうしたもない。こいつは敵だ。殺す。殺してやる。そいつは何故だか笑う。


「いい目だね。心地いい殺気だ。でも、まさかキミ、僕とやりあう気?」


そいつは笑う。笑っている。それがオレの神経を逆撫でする。


「やめておいた方がいいと思うけど。キミ弱そうだし。具合も悪そうだし」


そんなことわかってる。

オレは弱い。喧嘩などしたこともない。身体だって不調だ。


だがそんなこと関係ない。


リボーンさんに危害を与えようとするのなら、黙って見ているわけにはいかない。

この命に代えてでも、こいつを殺してやる。

怒りのあまりに、今まさに飛びかかろうとした、そのときだった。



「獄寺。何をしている」



リボーンさんの声が、後ろから聞こえたのは。

オレは不意のことに驚き、固まる。振り向けば、当たり前のように当然に…リボーンさんがいた。

リボーンさんはオレを見たあと、あいつを見て。


「誰かと思ったら雲雀か。どうした」


と言った。

え。これが雲雀なんですか。

オレは驚いた。

これこう見えて鳥なんですか。知らなかった。雲雀を見たのは初めてです。

それにしてもリボーンさん、今日は饒舌ですね。素敵です。