無害な吸血鬼
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リボーンさんの登場により、先ほどまでのオレの怒りはまるで針で突かれた風船のように四散してしまった。
オレはリボーンさんと向き合う。そして、前々から言ってみたかった言葉を口にした。
「お帰りなさいリボーンさん」
「ん?ああ、ただいま」
きゅん。
オレはときめいた。
こんな一言二言だけの会話に、これだけの破壊力があるなんて。驚きだ。
今度、絶対、いってらっしゃいも言おう。絶対言おう。言おうったら言おう。
「僕を無視しないでくれる?」
背後から声が聞こえた。そういえばこいつがいるんだった。ええと、なんていったっけ。そう、雲雀だ。
振り向けば雲雀は真っ直ぐにリボーンさんを見ている。もう椅子には座ってなくて、立っていた。
「リボーン、なに、その子。飼ってるの?愛玩動物?」
それはもしかしてオレのことか。
そういえばリボーンさんにとってオレは一体なんなのだろうか。小間使いか。食料か。
「獄寺か?獄寺はオレの―――」
…オレの?
その言葉の続きを待っているオレがいた。
しかし、その先の言葉は出てこなかった。
雲雀が、なにやら棒のような物を持って、リボーンさんに突撃していったから。
風が横切る。雲雀がオレを飛び越えたのだ、と理解した頃には雲雀は棒をリボーンさんに振りかぶっている。
当たる。
危ない、と思ってオレは息を呑む。しかし予想は当たらず、リボーンさんは少し首を動かしただけで雲雀の攻撃を避けてみせた。
雲雀の動きは止まらない。次から次へとリボーンさんに殴りかかる。襲いかかる。しかしリボーンさんには当たらない。リボーンさんは雲雀の攻撃をひょいひょいと、いともあっさりと避けていく。
「逃げてばっかり。反撃しておいでよ」
「前も言ったと思うんだが、オレにはお前を攻撃する理由がない」
どうやら前にも似たようなことがあったらしい。
雲雀の攻撃は止まることを知らない。リボーンさんはずっと避け続けていて、なんだかまるで二人は踊っているようだと思った。
そんなことを考えて、部屋の真ん中でぼけっと突っ立っていたのがいけなかった。
恐らく狙ったわけではないのだろうが、雲雀の持ってる棒がオレの顔面目掛けて、それはそれは物凄い勢いで、襲いかかってきた。
当たる。
どこか他人事のようにそう思った。当たったら痛いどころか死んでしまうかも知れないとわかっていながら、オレは特に危機感も持たず瞬きもせずにただ黙ってそれを見ていた。いや、まぁただ単純に何かを思うだけの時間がなかっただけなのだろうけど。
当たる直前、目の前に大きな手が現れた。細くて長い指。リボーンさんの手だ。
リボーンさんの手が大きく揺れる。棒が、雲雀の攻撃がオレの前に現れたリボーンさんの手に当たったのだ。今まで避けていたのに何故?オレに当たりそうになったから?リボーンさんがオレを庇った?
「リボーンさん!」
オレは思わず声をあげていた。オレは混乱する。リボーンさんがオレなんかのために傷を負う?そんなこと、あってはならないのに。
「へぇ、その子のことそんなに大事?じゃあその子殺そうか?僕に攻撃する理由をあげるよ」
「そんなつもりもないくせに、下手な挑発をするな。オレにその手は効かんぞ」
「………そういえば、そうだったね。忘れていたよ」
雲雀が棒をおろした。攻撃をやめた。先ほどまでの激しい動きが嘘のよう。
「もういいのか?」
「興が削げたよ。その子がいないときにまた襲うから」
嫌な宣戦布告だった。
しかしリボーンさんはその言葉を聞いても一言、そうかと呟くだけだ。
「リボーンさん、大丈夫ですか?」
「ああ。大事ない」
リボーンさんの言葉にオレはほっと息をつく。そして雲雀を睨み付けた。
「なに」
なに、ではない。というか、それはこちらの台詞だ。なんだお前は。鳥の癖に。
「いや、獄寺。雲雀は雲雀という名前であって、鳥ではない」
「あ、そうなんですか」
オレは認識を改めた。
「キミたち面白いね」
なんだとコラ。
「で、何しに来たんだ雲雀。まさか本当にオレを殴りにきただけなのか?」
「ああ、そう。忘れてた」
雲雀はぽんと手を打ち、そのまま言葉を放つ。
「最近、吸血鬼狩りしてる奴がいて。リボーンなら大丈夫だと思うけど一応言いに来たんだった」
吸血鬼狩り。
なにやら物騒な響きだ。とオレはまた他人事のように考えていた。
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