マフィアだということ
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「くだらねぇな。んなものねぇよ」

「嘘だ!!!」


絶叫。木霊が響く。


ツナはそれを認めない。認めるわけにはいかない。

そんなものがないというのなら、どうして彼は、リボーンはオレの前の敵を撃つ時。

一瞬だけ…そう、一時の刹那という短い間だけでも、迷ったというのだろうか。

ツナはリボーンにアイコンタクトを送ったから。ずっとリボーンを見ていたから分かる。

リボーンはその一瞬の刹那の間のとき。獄寺を見ていた。


助けようと思えば助けられたのだ。


なのに助けなかった。マフィアとしての習性が災いして。

けれどそれすらもリボーンは切り捨てる。くだらないと言って。


「―――くだらねぇ。それに、オレの気持ちだどうだろうともう何の関係もねぇだろ」


獄寺は死んだのだから。


「………っ」


あっさりとそう言い放つリボーンにツナは再度言葉を失う。もう何も言えない。

沈黙が流れて。リボーンは疲れたようにため息を吐いた。


「そんなに殺したくなかったのなら。オレから獄寺を奪えばよかったのにな」


それはあのときの会話だろうか。ツナはぼんやりと思い出す。


リボーンは言った。欲しいものは奪えと。その時ツナは半分冗談で…そして半分本気で。本当に獄寺を奪おうかとも考えた。

それにリボーンが言った台詞が、その方がいいかもしれない、ということ。


それは…つまり。


リボーンは結局の所、どれほど大事にしようとしても最後はツナを取らなければいけないから。どうしても相手を幸せに出来ないから。

だから、身を引こうと。そう考えての言葉だったのだろうか。


「獄寺はただでさえ"10代目の右腕"なのに。そこに"最強の殺し屋の愛人"だなんてスポット。そりゃあ狙われるよな」


だから今まであまり相手にしなかったのに。とリボーンは独り言のように呟いた。

それは…それは。


たとえば、今まで素っ気無い対応をしていたのはリボーンの愛人としての地位を最小限に抑えて。逆恨みなどで狙われるのを出来る限り避けるため、だったとか。

たとえば、ツナに乗り換えるのを度々進めていたのは自分では決して幸せにしてやれないから。蝶よ花よと愛してやれないから、だったとか。


全ては彼を、獄寺を想った故の行動だったとしたら。


―――ああ、もう。完敗だ。もう涙を堪えることも出来やしない。


「これほどまでに冷たく当たったのに。どうして獄寺はオレから離れなかったんだろうな」


問い掛けているようで、それはきっと独り言。何故ならリボーンは誰にも答えを求めていないから。

でもツナはそれに答える。ツナはそれの答えを知っていたから。むしろ、どうしてリボーンが知らないのかが不思議なくらいだ。


「…何言ってるのさリボーン。どうしてって、決まっているじゃない」


ツナは目を閉じる。目蓋の裏に映し出されるのはいつもの彼。…リボーンの話題が上がった時の、彼。

リボーンの話題が上がる度。リボーンの事を思い出す度。決まって彼は、獄寺は同じ顔をしていた。


―――幸せで幸せで、たまらないっていう顔を。


「それほどまでにリボーンのことが好きだったって。それだけじゃない」


獄寺くんと付き合っていたこと、後悔したらゆるさないから。

精々これからも自慢してやがれ。このお互いをこれ以上ないほど理解し合って。想い合って。そして愛し合った恋人たち。

たとえそれが普通の、一般人の恋人と違った関係だったとしても。充分に愛せなかったとしても。…見殺しにしてしまったとしても。

けれども二人はお似合いのカップルだ馬鹿野郎。ああもう認めるよ。オレの浅い考えなんて何の意味ももたらさなかったよ。ツナは嘆いた。

ツナが失恋に涙を流している間もリボーンは表情を一切変えずに。けれど獄寺の顔をじっと見ていた。